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『十三人の刺客』ジム・ジャームッシュも陶酔した!?集団抗争時代劇の系譜

『十三人の刺客』ジム・ジャームッシュも陶酔した!?集団抗争時代劇の系譜

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集団抗争時代劇の魂を継いだカルトな傑作『必殺!Ⅲ』



 1963年の『十三人の刺客』で「集団抗争時代劇」の第一人者となった工藤栄一監督だが、日本映画の不振に伴って1970年代には活動の場をテレビドラマに移す。「傷だらけの天使」のような現代物から火曜サスペンス劇場までさまざまなジャンルを手がけたが、とりわけ有名な仕事は1972年から始まった「必殺シリーズ」だろう。


 「必殺シリーズ」は池波正太郎の時代小説「仕掛人」シリーズをベースにした「必殺仕掛人」が第一作目。カネをもらって悪を殺害する“仕掛人”なる裏稼業の面々を主人公にしたアンチヒーロー物である。第一話の脚本は『十三人の刺客』の池上金男が担当し、監督は深作欣二が手がけた。そして『仁義なき戦い』で多忙になった深作がシリーズ第二弾『必殺仕置人』の監督に推薦したのが『十三人の刺客』の工藤栄一だったのだ。


 「必殺シリーズ」では、さまざまな殺しの技を持つプロフェッショナルが人知れず悪党を消していくが、シリーズが続くに従ってギ現実離れした殺し技が増えていく。その最たるものが「新・必殺仕事人」で初登場した“三味線屋の勇次(中条きよし)”や「必殺仕事人Ⅴ」の“組紐屋の竜(京本政樹)”。ともに色気のあるクールな二枚目キャラで、三味線の弦や組紐を敵に投げつけ、それが相手の首に絡まって宙づりにする。弦や紐が物理の法則などおかまいなしに飛び回る超絶技で人気を呼んだ。


 ところが、だ。工藤栄一は定番化していたマンガチックな様式美を「集団抗争劇」スタイルで完全にリセットしてしまったのである。「必殺仕事人」の人気を受けて製作された劇場版第三作『必殺!Ⅲ 裏か表か』(86)での話だ。


 劇場版ということでシリーズの人気者が顔をそろえる中、工藤栄一と製作陣がやったことは「必殺シリーズ」のお約束を自らぶち壊すことだった。映画のクライマックスで仕事人たちは絶体絶命の窮地に追い込まれ、土砂降りの佃島で大勢の刺客にひとり、またひとりと殺されていく。そんな泥まみれの修羅場では華麗に組紐を投げるようなトリッキーな技は一切通用しない。


 結果、“組紐屋の竜”は囮となって無様に斬り殺される。生き残った仕事人たちは悪徳金貸しの屋敷に乗り込んで反撃に出るのだが、トレードマークの武器は捨てて、拾った刀で斬って斬って斬りまくるしかなくなるのだ。レギュラーでさえ生き残れるかわからない壮絶なクライマックスはもはや「集団抗争時代劇」そのもの。1963年の『十三人の刺客』が伝統と様式美で硬直化した時代劇に風穴を開けた快挙を思い起こさせる、工藤栄一の隠れた傑作である。



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