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『マイ・ブルーベリー・ナイツ』色彩、詩情、空気……ウォン・カーウァイの美意識が「世界化」した瞬間

(C)Block 2 Pictures 2006

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』色彩、詩情、空気……ウォン・カーウァイの美意識が「世界化」した瞬間

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『マイ・ブルーベリー・ナイツ』あらすじ

「あの夜食べたブルーベリー・パイは、失くした恋の味がした」新しい恋を見つけるまでの5,603マイルニューヨーク。失恋したエリザベスは、とあるカフェに出入りするようになる。毎晩ブルーベリー・パイを残して待っていてくれるカフェのオーナー、ジェレミー。優しい彼との会話に、心が慰められるエリザベスだったが、失恋相手が新しい恋人といるところを見てしまい、旅へ出ることを決める。別れた妻への愛を断ち切れず、アルコール中毒になった男と、その元妻。人を信じない若くて美しいギャンブラー。数々の人々と出会いながら、エリザベスはジェレミーが待つニューヨークへ戻りたいと思い始める…


Index


芸術を志向する人々の憧れ、ウォン・カーウァイ



 失恋の後味は苦く、恋のくちどけは甘い――。


 『恋する惑星』(94)、『ブエノスアイレス』(97)、『花様年華』(00)など、多くの芸術映画を生み出してきた巨匠、ウォン・カーウァイ監督。大学でグラフィック・デザインを学び、その後脚本家を経て映画監督へと到達した彼の描く世界は、「行間で語る」一篇の詩のように余白を残しつつも、観る者の心を一色に染め上げ、深い感慨を与える。


 1本の映画の中に刹那と永遠が混在する不思議な浮遊感、「静謐な情熱」とでも言うべき温度感。そして、華やかな色彩の中にも、どこか空しく気だるげな色香がにじむ寂寥感――。カンヌ国際映画祭がその才能にほれ込み、クエンティン・タランティーノ監督が演出力を絶賛し、世間的に全くの無名だった新人監督バリー・ジェンキンスは、オマージュをささげた『ムーンライト』(16)でアカデミー賞を受賞した。


 カーウァイ監督の存在は、映画業界だけではなく、美術やファッション、カルチャーにも多大な影響を及ぼしている。2015年には、年に1度メトロポリタン美術館で開催されるファッション界最大級の祭典「メットガラ」の美術監督を担当(その舞台裏は、映画『メットガラ ドレスをまとった美術館』(16)で確認できる)。改めて、非凡な美的センスを見せつけた。


『メットガラ ドレスをまとった美術館』予告


 世界中の芸術を志す人々から愛される男、ウォン・カーウァイ。彼が初めて英語作品に挑んだ記念すべき映画が、失恋の痛みを描いたポエティックな恋愛譚『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(07)だ。


 グラミー賞歌手のノラ・ジョーンズを主演に起用した本作は、心が壊れるほどの失恋を経験した女性が、あてどない旅に出る姿をつづった「再生」のドラマ。アジアの巨匠の英語圏進出、人気絶頂のジョーンズが出演する話題性、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、レイチェル・ワイズ、デヴィッド・ストラザーンといった実力派が脇を固める布陣、2007年に開催された第60回カンヌ国際映画祭のオープニング作品に選出、アメリカを縦断して撮影など、かなり企画色が強い大スケールの作品かと思いきや、その中身は実に静かで小さな、「半径数メートルの視界」が移ろうさまを丹念に描き切った秀作だ。


『マイ・ブルーベリー・ナイツ』予告


 カーウァイ監督ならではの「色彩感覚」と「時間の流れ」が薄まることなく画面に表現されており、独自の世界が構築された上で、各出演者がキャラクターとして自然に呼吸している。例えるなら、東洋と西洋の文化と風味が見事に絡み合った、シルクロードのような「いいとこどり」の仕上がり。『マイ・ブルーベリー・ナイツ』をきっかけにカーウァイ監督の世界に触れる若い映画ファンも生まれ、彼のフィルモグラフィの中でも浮くどころか、燦然と輝いている。



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