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『コックと泥棒、その妻と愛人』悲劇か、喜劇か。オランダ絵画への偏愛から生まれた、美醜あふれる復讐絵巻

(c)Photofest / Getty Images

『コックと泥棒、その妻と愛人』悲劇か、喜劇か。オランダ絵画への偏愛から生まれた、美醜あふれる復讐絵巻

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そして評価を確立した



 本作『THE COOK, THE THIEF, HIS WIFE & HER LOVER』(原題。タイトルがすでに記号的でユニークだ)は、イギリス人のピーター・グリーナウェイ監督が撮った5本目の長編である。


 初めて世界的に評価された『英国式庭園殺人事件』(82)以降、『ZOO』(85)、カンヌ国際映画祭で芸術貢献賞を受賞した『数に溺れて』(88)など、様式美や規則性に過剰にこだわった作風を完成させ、独自の世界観でファンを獲得していた。しかし知的なゲームを楽しむようなつくりが難解な印象を与え、カルトムービーにとどまらせていたことも事実だ。


 時代のなせる技だったのか、酔狂者なのか、国の助成金なのか分からないが、こういう映画にお金がついてくるヨーロッパの奥深さと、コンスタントに作り続けて来た監督の情熱がすごい。


『英国式庭園殺人事件』予告


 そんないらぬ感心をよそに、次に発表した本作は、築き上げてきた作家性をさらに押し進め、勧善懲悪のわかりやすい構造とマッチング、観客の裾野をひろげて多くのファンを獲得し、監督の代表作と推す人は多い。


 舞台は高級フランス料理店。一番の顧客は大泥棒のアルバートとその美しい妻ジョージーナの一行。ジョージーナは、傍若無人で残忍な夫に愛想を尽かしてはいるが、逃げ出せない日々を送っている。そんなある日、彼女はお店の常連である学者マイケルと惹かれあい、深い関係に。全てを知るコック長リチャードは二人に情事の場所を提供するが、気づいたアルバートは嫉妬に狂い、手下とマイケルを探し始めるのだった。そして迎える衝撃的な結末。過去作にはなかった大きなカタルシスを演出して映画は終わる。



『コックと泥棒、その妻と愛人』(C) 1990 ROAST, B. V. AND ERATO FILMS/FILMS INC. ALL RIGHTS RESERVED.  


 泥棒成金と知識人、野蛮な夫と思慮深い美女、相反する要素をとりまとめる、フランス料理ならではの洗練さと気高さを体現した料理長。わかりやすい人間関係と俳優たちの熱演、ドラマチックな音楽によって全体の骨子が明確になり、感情移入がしやすくなったことで、<とっつきやすさ>が生まれた。


 だからこそ、監督独自の美学に対する徹底的なこだわりが、さらに映画の強度を上げることに直結し、より広い評価を得ることに成功したのだ。



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