『ファーゴ』幸せは欲を超えたところにある。コーエン兄弟の傑作、その魅力

幸せは、日常のすぐそばにある

　『ファーゴ』は『赤ちゃん泥棒』とよく似ている。誘拐を描いていること、主人公の妻が警察官であること、夫が浮世離れしていること、小悪党がいて、さらに冷血な悪党がいること等々。しかし、慎ましい現状に満足しているという点で、マージとノームの夫妻は、『赤ちゃん泥棒』の夫婦よりも成熟している。

　『ファーゴ』の製作時、ジョエル・コーエンとフランシス・マクドーマンドの夫妻は養子を迎えて親となった。ジョエルの弟イーサンも妻の出産を経験した。そんな心情が、マージとノームの夫妻に反映されたとしても、なんら不思議ではないだろう。いずれにしても、コーエン兄弟もまた、『赤ちゃん泥棒』製作時から映像作家として成熟したのは疑いの余地がない。

『赤ちゃん泥棒』予告

　『赤ちゃん泥棒』も『ファーゴ』も、夫婦がひとつのベッドに横たわっているシーンで終幕を迎える。望むものを手に入れられなかった前者の夫婦は、こんな未来になればいい……という夢を見る。対して後者の夫婦は夢を見ることはない。ないものねだりをする必要がない。そもそも欲がないのだから。幸せは、欲を超えたところにある――物語のテーマは、寒々しい土地にも温かいものがあることを伝えている。そんなぬくもりを求めて、筆者は今冬も『ファーゴ』を見るだろう。

文： 相馬学

情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO！シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。

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『ファーゴ』

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