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『蜘蛛女』攻撃型ファム・ファタールが、男性目線のファンタジーをひっくり返す伝説の怪作

(C)2016 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.

『蜘蛛女』攻撃型ファム・ファタールが、男性目線のファンタジーをひっくり返す伝説の怪作

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レナ・オリンが爆演する辛口のハイパー・ファム・ファタール!



 さて、まだ地獄を知らない血気盛んだった頃の話。涼しい顔をして好色なジャックは、同僚から「女好きのロミオ」なんてからかわれている(ロミオは俗語で「色男」を指す)。本作の原題は“Romeo Is Bleeding”。これはトム・ウェイツの楽曲から取られたもので、1978年の名盤「ブルー・ヴァレンタイン」に収録されている(邦題「血だらけのロミオ」)。ちなみにライアン・ゴズリングとミシェル・ウィリアムズ主演の恋愛映画『ブルーバレンタイン』(2010年/監督:デレク・シアンフランス)は同アルバムの同名曲がタイトルの元ネタである。


 この「女好きのロミオ」を「血まみれのロミオ」に変えてしまうのが、強烈なインパクトを放つ最凶ヒロインだ。ロシア系の殺し屋、モナ・デマルコフ(レナ・オリン)。ジャックは、彼が取り引きしているマフィアに敵対するモナから、マフィアの提示額の5倍もの金額を積まれ、彼女の死の偽装工作を請け負うことになる。



『蜘蛛女』(C)2016 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. 


 かくしてジャックは二重の取り引きを交わし、マフィアを裏切ってしまう。何という身の程知らず! まもなく彼は板挟みで絶体絶命の状態に。マフィアから追われ、モナに運命を翻弄されることになる。


 フィルムノワールでおなじみの公式では、ミステリアスな魅惑と色香をぷんぷん放つファム・ファタール(=運命の女)が登場して、その誘惑性に引き寄せられた主人公の男を(半ば無意識に)破滅へと導く。言うならば「出会ったら、終わり」。本作のジャックのナレーションから言葉を引くと、「頭の中で声がして、間違ったことだと知りつつもその声に従う」という魔性の行動力学が働くわけだ。


 原則的にファム・ファタールは、甘く危険な香りがする。だが『蜘蛛女』のモナは、典型的なファム・ファタールの造形に基本を置いておきながら、実はかなり特異なキャラクターだ。まず登場した瞬間から圧倒的に辛味が強い。ガーターベルトの下着姿に、タイトなシルエットのスーツを絶妙にゆるっと羽織り、ジャックとほぼ変わらぬ長身。ガラガラのハスキーヴォイス。引っ切りなしに吸う煙草。



『蜘蛛女』(C)2016 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. 


 一見して猛毒の肉食獣(『蜘蛛女』の邦題に倣えば「虫」か)だが、そこからモナの戦闘力はさらなる「伸び」を見せる。詳細は控えるが、事態の苛烈さが増していく中で、まるで不死身のサイボーグのようにもなる驚き! 言わばハイパー化された攻撃型ファム・ファタール。観る人によってはホラーにも近い印象を抱くのではないか。


 また細かい設定なのだが、ジャックはモナに出会って以来、不眠症となったという告白がさりげなく語られる。現実と幻想が混濁していく感覚に映画が支配されていくのが、本作を覆う悪夢性の正体かもしれない。



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