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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はみ出し者たちを繋ぐPOP&ROCKの意味とは

(c)Photofest / Getty Images

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はみ出し者たちを繋ぐPOP&ROCKの意味とは

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ロック/POPソングの意味



 ジェームズ・ガンはマーベルからはみ出し者のヒーローチーム『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の脚本と監督の依頼を受け、提示されたアウトラインに対し、独自の際どいジョークをふんだんに盛り込む。そして、ロックやポップソングを作品の「軸」に据えて肉付けしていくのだ。ここで、使用楽曲と共に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を振り返ってみよう。


 宇宙を舞台にした壮大なスペース・オペラであるハズの本作は、10ccの甘く緩やかな曲「アイム・ノット・イン・ラブ」から始まる。


10cc「アイム・ノット・イン・ラブ」


 “恋してるワケじゃない。ただ、ちょっと、そんな気分になっただけ。勘違いしないでくれよ。電話はしたけど、声が聞きたい気分になっただけ。”


 元は、好きな相手に照れてしまって素直に気持ちを伝えられない、という曲だ。劇中では、ピーター少年が大好きな母親が死に行く様子を受け入れられず、自分が置いてきぼりを食らったような気持ちになって、素直になれない、そんな気持ちにシンクロさせている。


 そして、場面は一気に26年後、大人になったピーターが登場。しかしウォークマンは当時と同じものだ。廃墟となった星をレッドボーンの「カム・ゲット・ユア・ラブ」を聞きながらゴキゲンに歩きまわる。


レッドボーン「カム・ゲット・ユア・ラブ」


 “その髪型はどういうことなの? その身振りは何なの? まぁ落ち着いてこっちに来いよ。キミはそのままで美しい。ここにはキミのルーツがある。ここならキミは愛を得る。”


 レッドボーンのメンバーがネイティブ・アメリカンをルーツに持っていることを踏まえると、都市へ行き感化されたネイティブ・アメリカンの若者へ帰郷や文化への回帰を呼びかける意味であっただろう。ただ、これが母親から息子へのプレゼントのテープだと念頭に置けば、どれだけ成長してもお母さんの子供だし、当然愛しているわ。と子供に対する絶対的な愛を込めた意味になるし、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のタイトル・ロゴを観ながら聞けば、観客に対して「キミはこの作品で愛を見つけられるよ」と、作品側からの愛の告白だとも取れる。


 オーブ(インフィニティ・ストーン)をめぐる争奪戦で警察に捕まり、刑務所に送られたピーター、ガモーラ、ロケット、グルートらは、ロナンに復讐したいドラックスを加え、脱獄を企てる。ここではAORシンガー、ルパート・ホルムズ「エスケープ」の場違いとも思える涼やかなメロディが流れる。


ルパート・ホルムズ「エスケープ」


 “カクテルならピニャコラーダが好きで、雨に降られるのも好きで、ヨガが嫌いで、少しは知的に話せて、でも夜中の浜辺の逢瀬にも興味あったら、手紙ください。現実から逃げましょう!”


 この歌の歌詞だが、実はちょっと奇妙な物語になっている。倦怠期に入ったカップルの片方が新聞の出会いを求める広告「ピニャコラーダが好きな人」に興味を持ち、連絡をし、会ってみたら付き合っていたパートナーだった。「なんだ、ピニャコラーダが好きだなんて知らなかったよ!」と新鮮な気持ちになり改めて付き合いを続ける。というものだ。


 “現実から逃げましょう!”の歌詞と「脱獄」をかけつつ、ピーターが好きな曲のことを、いけすかない刑務所の看守も好きだった、というギャグにしている。ただ、ジェームズ・ガンは「この曲って黙って浮気しようとしている話でキモチ悪いよね」と語っている。劇中のピーターも看守を殴り倒し、ウォークマンを取り戻して逃げるのである。


 いきがかり上、強敵ロナンからオーブを奪い返さなければならなくなったピーターたちが、決戦に向けて準備をするバックにガールズ・ロックバンド、ランナウェイズの「チェリーボム」が響く。


ランナウェイズ「チェリーボム」


 “学校にも、家にも居場所がない。年寄りは「かわいそうな子」とか言うけど、街に出ちゃえば普通の子。アンタが探している女ギツネさ。アタシはチェリーボム!”


 世間との折り合いがつけられない跳ねっ返りな女の子の心象と、寄る辺無いガーディアンズの心象を重ねつつ、ジェット感のある場面によく合ったノリの良いロックンロールである。ちなみに「チェリーボム」を翻訳すると「癇癪玉」になるが、日本でかつて駄菓子屋などで流通していたラムネの粒ほどの「癇癪玉」と違い「チェリーボム」は500円玉ほどの大きさで、さくらんぼのような導火線がついた、小型爆弾と言っても差し支えない代物である。


 ガーディアンズの面々はロナンの乗る宇宙船を墜落させはしたが、ロナン自身は生きており、阻止しなければいけなかったザンダー星への上陸を果たさせてしまう。万事休す。もはやこれまでという場面で、なぜかピーターはロナンにダンスバトルを挑む。その場面で口ずさむのがソウルグループ、ザ・ファイブ・ステアーステップスの「ウー・チャイルド」だ。


ザ・ファイブ・ステアーステップス「ウー・チャイルド」


 “我が子よ。物事はシンプルになっていく。すべてが輝きだす。いつか、全てを手に入れて、一緒にすべてを終わらせよう。”


 もちろん、メンバーみんなで協力してロナンを倒し「すべてを終わらせる」フリになっているのだが、元々は親から子供へのメッセージ・ソングであることから、ピーターが母親へつれなく当たってしまった慚愧の念を振り切って、ガーディアンズのメンバーと「家族」のような絆を得る、という意味も立ち上がってくる。


 ガーディアンズの面々はみごとにロナンを打ちくだき、ザンダー星を救うのである。ここで、マーヴィン・ゲイとタミー・テレルのデュエット曲「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ」が流れる。


マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ」


 “超えられない山は無い。渡れない川も無い。険し過ぎる谷も無い。私たちの間には。”


 この作品での既成曲の使い方はどれも見事だが、中でも白眉はこの曲であろう。歌詞自体は“愛し合う2人に困難は無い”というラブソングだ。ただ、歌っているタミー・テレルは24歳の若さで脳腫瘍により逝去し、マービン・ゲイは実の父親に銃殺されている。この2人の死因と劇中のピーターの、まだ若かった母親を脳腫瘍で失い、父親は(次作で)自分を殺そうとする、その状況が重なってくるのだ。



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