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『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』ブラッド・ピットとフィンチャーがおくる、人生の夢と儚さ

The Curious Case of Benjamin Button © 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design & Supplementary Material Compilation © 2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.

『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』ブラッド・ピットとフィンチャーがおくる、人生の夢と儚さ

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ブラッド・ピットの進化、彼を支える俳優たち



 老人から少年へと逆成長を見せる主人公のプロセスは物語としてもスリリングだが、ブラッド・ピットという俳優が見せる七変化にもワクワクさせられる。最初はグロテスクな顔の老人だが、少しずつ若くなり、後半ではあっと驚く美青年。まさに究極のCGマジック! 90年代のピットの出世作『リバー・ランズ・スルー・イット』あたりから彼を見守ってきた人にとってはまさに奇跡のような瞬間が訪れる(この場面を初めてスクリーンで見た時は大きな衝撃を受けた)。


 どこか風変わりで、ワイルドで、それでいて少年の純粋さもあるベンジャミン・バトンはピットにぴったりの役。中年期の彼はヤボったく見えるが、人間的で素朴な味わいがあるところがいい。アメリカ的な泥臭さを残しつつ、ちょっとお茶目なユーモアもあるところがピットの魅力で、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で演じたスタントマン役でも、その愛嬌のある個性が発揮されていた。



『ベンジャミン・バトン~数奇な運命』The Curious Case of Benjamin Button ©  2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design & Supplementary Material Compilation ©  2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.


 かつて来日会見で「年をとることをどう思いますか?」と質問され、「年をとるということは、賢くなることだと思うので、特に不安を感じていません」と答えていたピット。その言葉通り、今の彼は映画製作者としても自信をつけ、とてもうまく年を重ねている。


 デイジー役のケイト・ブランシェットは、現在の映画界で最も実力のある女優のひとりで、『アビエイター』(04)、『ブルー・ジャスミン』(13)ではアカデミー賞も手にしているが、ピットは長年、彼女のファンだったようだ。初共演が実現したのは『バベル』(06)で、ここでも夫婦役だった。『ベンジャミン・バトン』は2度目の共演ということもあり、息もぴったり。透明感のある美しさとちょっとエキセントリックで、知的な雰囲気を持つケイトの七変化も楽しめる。



『ベンジャミン・バトン~数奇な運命』The Curious Case of Benjamin Button ©  2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design & Supplementary Material Compilation ©  2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.


 英国貿易使節団のスパイである夫と結婚しながら、ベンジャミンとひそかに恋に落ちるエリザベス役のティルダ・スウィントンは、80~90年代は英国の前衛的な監督、デレク・ジャーマンのミューズとして『カラヴァッジオ』(87)などに出演していたが、21世紀に入り『フィクサー』(07)でオスカーを撮ってからはハリウッド映画でも知的な個性派として大活躍。ピットの推薦で彼女は今回の映画に出演したそうだ。ベンジャミンに初めてのキスやキャビアの味を教える、大人の女性役をすごく優雅に演じる(洗練された服の着こなしにも見惚れてしまう)。ピットとは『バーン・アフター・リーディング』でも共演している。


 デイジーの娘を演じるジュリア・オーモンドは『レジェンド・オブ・フォール』(94)でピットの恋人役を演じた英国の女優。地味ながらも病気の母を見守る娘を芯のある演技で見せる。また、後悔を胸に秘めた父親に扮した英国人、ジェイソン・フレミングはピットとは『スナッチ』(00)で共演していた。



『ベンジャミン・バトン~数奇な運命』The Curious Case of Benjamin Button ©  2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design & Supplementary Material Compilation ©  2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.


 ピットのお気に入りや縁の深い俳優たちが脇を固めることで、映画の雰囲気に統一感が出ている。さらに再見して驚いたのは、『ムーンライト』や『グリーンブック』(18)でオスカーの助演男優賞を手にした注目の黒人男優、マハーシャラ・アリがベンジャミンの義理の父親的な役を演じていたこと。そして、今は売れっ子のエル・ファニングが7歳のデイジーを演じていたこと。今をときめく俳優たちをいち早く起用している点は、さすがフィンチャー! ピットの盟友である彼もオスカー受賞を心から祝福したに違いない。



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「週刊女性」、「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

The Curious Case of Benjamin Button ©  2008 Warner Bros. Entertainment Inc. and Paramount Pictures Corporation. Package Design & Supplementary Material Compilation ©  2009 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.

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