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『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』ジョン・キャメロン・ミッチェルが吐き出した奇跡

© 2001 New Line Productions, Inc. © 2001 Fine Line Features. All rights reserved.

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』ジョン・キャメロン・ミッチェルが吐き出した奇跡

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ゲイバーの出し物から生まれたロックスター“ヘドウィグ”



 実は“ヘドウィグ”なるキャラクターにはモデルがいる。ジョン・キャメロン・ミッチェルがティーンエイジャーの時に出会ったヘルガというドイツ人女性だ。彼女は“ヘドウィグ”と同様、トレイラーハウスに住み、ベビーシッターの傍ら売春婦をしていた。ミッチェルと同じく同性愛者であり、家庭環境や厳格なカトリック教徒として育てられたことなど通じ合うことが多かった。そして2人ともが“神話”に魅せられていたという。


 『ヘドウィグ~』の物語には、もうひとり、ヘドウィグと裏表を成すキャラクターが登場する。人気絶頂の若きロックスター、トミー・ノーシスだ。トミーは弟のベビーシッターとして家にやってきた“ヘドウィグ”と出会い、恋に落ち、ロックの手ほどきを受ける。やがて“ヘドウィグ”を捨て、彼(彼女)が書いた曲や、2人で共作した曲を歌ってスターになるのだ。



『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』© 2001 New Line Productions, Inc. © 2001 Fine Line Features. All rights reserved.


 最初期の構想では、主人公はトミー・ノーシスになるはずだった。“ヘドウィグ”の人物像には、キャメロンが少年時代にベルリンに住んでいた実体験も反映されているが、アメリカ軍の将軍の家に生まれ育った異端児、というトミーの設定は、ミッチェルの境遇の引き写しなのである。トミーこそミッチェルの分身であり、“ヘドウィグ”というキャラクターはあくまでも脇役として考えられていたのだ。ところが“ヘドウィグ”は、ミッチェルも想像していなかった形で、とてつもない飛躍を遂げることになる。


 勘違いされていることも多いので説明しておくと、ジョン・キャメロン・ミッチェル本人は同性愛者だが、“ヘドウィグ”のようなドラァグクイーンではない。1994年からドラァグクイーンショーとパンクロックのライブを組み合わせたNYのクラブ「スクイーズボックス」で“ヘドウィグ”としてパフォーマンスを始めるまで、いわゆるオネエ的なファッションとも無縁だった。


 1994年当時、キャメロンは既にブロードウェイで名を知られた舞台役者だった。きっかけは友人であるスティーヴン・トラスクが「スクイーズボックス」のハウスバンドを頼まれたことだった。トラスクとミッチェルは以前から、トラスクが作曲したオリジナル曲で斬新なパフォーマンスをしようというアイデアを温めていた。そこでトラスクがミッチェルを「スクイーズボックス」のステージに担ぎ出し、そこで初めて“ヘドウィグ”というキャラクターが披露されることになる。


 前述のヘルガに加えて、ショーに出演していたケバケバしいドラァグクイーンたちをベースにして生まれた“ヘドウィグ”は、ロックナンバーをミュージカルのような歌唱で歌い上げ、流転と激動の(架空の)身の上話を語る独特のスタイルで注目を集めるようになる。そしてミッチェルとトラスクは“ヘドウィグ”というキャラクターと物語を4年がかりで煮詰め、1998年にオフブロードウェイの舞台劇として公演を始めるのである。



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