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『アマデウス』巨匠ミロス・フォアマンの激動の人生から見えてくるもの

(C) 2007 Warner Home Video. Program Content, Artwork &Photography (C) 1984 The Saul Zaentz Company. All rights reserved. "ACADEMY AWARDS(R) "is the registered trademark and service mark of the Academy of Motion Picture Arts and Sciences.

『アマデウス』巨匠ミロス・フォアマンの激動の人生から見えてくるもの

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フォアマンが持つ二つの側面



 久方ぶりの帰郷は、当人に様々な思いを去来させるものである。この長期に及んだ祖国でのロケ撮影が、フォアマンの胸中にて「過去の自分」と「現在の自分」を大いに向き合わせる機会となったことは想像に難くない。


 かつて自由を束縛された社会で暮らしていた「過去の自分」は、今や自由な環境で映画製作に打ち込み、オスカー監督にまで上り詰めた「現在の自分」を見てどう感じるだろう。おそらく、欲しいもの全てを手に入れた嫉妬するほどの存在として映るのではないだろうか。


 そうやって見つめた時、これらの関係性は、本作におけるモーツァルトとサリエリの対立構造とも、少なからず重なっているように思えるのだ。



『アマデウス』(C) 2007 Warner Home Video. Program Content, Artwork &Photography (C) 1984 The Saul Zaentz Company. All rights reserved. "ACADEMY AWARDS(R)  "is the registered trademark and service mark of the Academy of Motion Picture Arts and Sciences.


 もしもフォアマンがいずれかの登場人物に肩入れするような人間であったなら、本作の構造はすぐさま瓦解してしまったろう。かつて自由に憧れ、祖国を離れ、またロケのために祖国へ舞い戻った経験を持つ彼だからこそ、この複雑怪奇な二人の人間模様を驚くほどの実直さで描ききることができたのではないか。


 その流れで言うと、とりわけ重要なのはクライマックスだ。相反する主役の二人が初めて同じヴィジョンを共有し、そこで着想したメロディを死に物狂いで譜面へ起こそうと力を合わせる姿は、まるでフォアマンの「過去」と「現在」が、長い旅路の果てにようやく和解を遂げて一つに融合していく儀式のようにも見受けられた。


 ミロス・フォアマンはその後のキャリアでもこだわりを持って歴史上の人物を描き続けたことで知られる。それほど多作とは言えないが、いずれの主人公も「自由な表現」を求めて人生を戦い抜いた者ばかりだ。骨太で、実直で、魂のうねりに満ちたその生き様は、まさにフォアマン自身・・・もっと正確に言えば、彼がそうありたいと生涯にわたって追い求め続けた理想の人間像だったのかもしれない。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『アマデウス』

日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイ&DVD(2枚組)¥5,790+税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

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