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『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』虐げられた者たちに“呼吸”を与える、逞しき「100%自己中映画」

(C) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics.

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』虐げられた者たちに“呼吸”を与える、逞しき「100%自己中映画」

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ハーレイを「あくまで人間」として描く“弱さ”の演出



 ここまで書いてきた部分を観ると、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』はやや重めな作品に思えてしまうかもしれないが、ヘビーなテーマを4つの要素によってコーティングしており、観る者が胃もたれすることなく向き合える作りになっている。


 その4つとは「キャラクター(+アクション)」「テンション(+コメディ)」「構造」「多様性」だ。ここからは、この4つに沿って作品を読み解いていきたい。


 まずキャラクターだが、本作ではハーレイを『スーサイド・スクワッド』以上に濃いめに描いており、同時に前作にあったようなセクシー路線が薄まっている。吐いたり泣きわめいたり酔いつぶれたりといった“弱さ”もコメディタッチながらしっかりと描かれており、性格からも見た目からも“媚び”の要素が減った点は、大きな変化といえよう。さらに、失恋によって髪を切るというアクションが加わり、服装もより実用的にマイナーチェンジ。「ハーレイ自身がしたい恰好をする」という“主体性”が感じられるものとなった。



『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(C) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics.


 また、アクション面では、ハーレイが優れた身体能力とボディバランスを存分に発揮してしなやかに敵を倒していくだけでなく、「力の序列」を明確に描いている点がポイント。監獄の囚人をKOする戦闘力は持ち合わせているが、手練れの戦闘員にはかなわない。バトルシーンにおいて、必要以上に“ハーレイ無双”になることはないのだ。他のキャラクターも含め、全体を通して男女のパワーバランスに細心の注意が払われている。アクションシーンは爽快に作ってあるが、伝えるべきテーマから逸脱することはない。新進監督キャシー・ヤンの抑えの利いた演出は、実に勇敢だ。


 この“意志”を裏付ける点になりそうなのが、ハーレイが酔いつぶれて男性に車で連れ去られそうになるシーン。本作はあくまで娯楽作であり、直接的な描写はないのだが、レイプを予感させるなかなかにハードな場面だ。ハーレイがどれだけぶっ飛んでいようが、1人の女性なのだと思い知らされるシーンであり、これらの場面を敢えて入れるところに製作者たちの覚悟が感じられる。


 本作で描かれるハーレイは、スーパーヒーローでもスーパーヴィランでも、“メタヒューマン”でもない。あくまで人間なのだ。このアプローチは、最強のパワーを持ちながらも心は純粋無垢な『ワンダーウーマン』(17)の逆説といえるかもしれない。


 対する敵キャラクターで特筆すべきは、ユアン・マクレガー演じるブラック・マスクだろう。上昇指向が強く、残虐性という意味ではトップクラス。裏社会の覇権を握るために邪魔な人物は家族もろとも殺し、拷問時には顔をはぐというクレイジーな悪漢だ。



『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(C) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics.


 ジョーカーの行動理念が“混沌”、つまり支配者すらなくして更地にするものだとするなら、ブラック・マスクは“権力”。ジョーカーがある意味「無私のヴィラン」だったのに対し、こちらは「排他のヴィラン」だ。よりマッチョイズムを増した支配者とハーレイが対峙していくという流れは、「仮想ジョーカーの克服」であり、邦題にあるとおり「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」でもある。ハーレイのウィークポイントを的確に突いた彼は、真の自立した女性になるための「通過儀礼」の役目を担っている。


 ここで比較したいのが、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の『キャプテン・マーベル』(19)だ。本作とは共通する点が非常に多く、テーマ的な部分も近い。こちらの主人公キャロル(ブリー・ラーソン)は失った記憶を取り戻していく過程で師匠(ジュード・ロウ)の過ちに気づいていき、やがて対決のときを迎えるのだが、「ヒロインが真の強さを手に入れていく」「マッチョイズムを振りかざす男性と対決」という流れ、ユアンとジュードという同世代の演技派英国俳優を起用している点など、並べて観てみると実に興味深い。


 ある種の“当て馬”的ポジションながら、卓越した演技力で「おいしい役」にまで持っていってしまうユアンとジュードの存在感は、流石の域だ。



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