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『コーラスライン』舞台はシリアスな限定空間。それまでのミュージカルの常識を覆したブロードウェイの金字塔

(c) Photofest / Getty Images

『コーラスライン』舞台はシリアスな限定空間。それまでのミュージカルの常識を覆したブロードウェイの金字塔

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スターを生まなかったのも作品どおりという皮肉



 こうしてロングランが続くなか、満を持して映画化されたのが、1985年の『コーラスライン』である。シンプルな舞台版の演出をどう映像で再現するのか注目されたが、カメラがわずかに劇場の外に出るものの、基本的にステージ上のオーディション風景に徹した作りは、オリジナルの世界観を壊したくない、リチャード・アッテンボローの配慮であろう。舞台版では声だけだった演出家のザックは、マイケル・ダグラスが演じることでスクリーンに姿を見せ、大きなパートを任されることになった。 


 このマイケル・ダグラス以外、映画版『コーラスライン』に有名なスターは出演していない。『カリフォルニア・ドールズ』で主人公のプロレスラーを演じた女優や、ドラマ「ダラス」のレギュラー出演者あたりが、かろうじて認知度があった。もちろん歌とダンスの能力は必須なので、ブロードウェイ経験者は何人もいたが、映画界ではほぼ無名のキャストが選ばれた。「コーラスライン」とは、スポットライトを浴びるメインキャストの後ろで踊る「その他大勢」を意味しており、そんなアンサンブルのオーディションを描くので、ある意味で、キャストが無名であることは作品として理にかなっている。


 そして映画『コーラスライン』に抜擢された面々で、その後、大スターとして花開いたキャストはいなかった。現在も俳優や振付の仕事をしている人もいる。ザックのアシスタントを演じた女優は、数年後、「ドリームガールズ」の来日公演で主役を務めていた。しかし、たとえばボビー役のマット・ウエストは1989年、横浜博覧会に招かれてショーの振付を担当するも、しばらくして映画撮影現場での運転手の職に落ち着いた。そして劇中でソロパートがあるリチー役のグレッグ・バージは40歳で、マイク役のチャールズ・マクゴワンは53歳でそれぞれ早すぎる死を迎えた。ショービズ界でのスポットライトを一瞬、『コーラスライン』という話題の映画で浴びかけつつ、消えていった人たち。まさに「コーラスライン」ではないか……。


 「コーラスライン」のブロードウェイでの上演は一旦、1990年に終了するが、この不朽の名作は2006年、ブロードウェイでリバイバル公演が始まり、そのオーディションを追ったドキュメンタリー映画『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』も作られた。オーディションを描く物語に対し、その役をつかむためにオーディションに挑むダンサー/俳優たち。この二重構造が見事な傑作ドキュメンタリーとして結実し、オリジナルの「コーラスライン」の類い稀な魅力を改めて実感させてくれた。とくにマイケル・ベネット自身が投影されたポール役のオーディションの場面には作品のテーマが凝縮され、観る者は心を揺さぶられずにいられない。


 『ラ・ラ・ランド』のオーディション場面にも大きな影響を与えたように、一瞬の夢を追いかけ、その瞬間に人生のすべてをさらけ出す人たちの美しき姿は、「コーラスライン」という名作を通して永遠に輝き続けるのである。



文:斉藤博昭

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。スターチャンネルの番組「GO!シアター」では最新公開作品を紹介。



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