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『ブレードランナー』英国からやってきた男、リドリー・スコットの孤独な闘い

TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

『ブレードランナー』英国からやってきた男、リドリー・スコットの孤独な闘い

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英国からやってきたリドリー・スコットを待ち受けていたもの



 「デンジャラス・デイズ」は製作に向け動き出した。当時は『スター・ウォーズ』『未知との遭遇』『エイリアン』などの大ヒットに沸いた空前のSFブーム。SF小説が原作の脚本「デンジャラス・デイズ」には映画会社も乗り気で、出資者も少しづつ増えていった。さて、そこで監督である。『エイリアン』の世界観を作り上げたリドリーの手腕に期待した製作陣は監督を打診するものの、『DUNE』の製作準備中であったリドリーからは断られてしまう。しかしリドリー自身は「デンジャラス・デイズ」の脚本には興味を持っており、『DUNE』降板後は、兄の急逝したショックから立ち直ろうとするかのように、監督を引き受けることになるのである。 


 かくして自国イギリスからハリウッドにやって来たリドリーだったが、彼を待ち受けていたのはハリウッド式映画製作システムとの闘いだった。。(『エイリアン』は20世紀FOXのハリウッド映画であるが、撮影自体はイギリスのスタジオで行われていた。)


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 製作準備段階ではまず脚本家のハンプトン・ファンチャーと闘うことになる。実はファンチャーの初期稿は部屋での会話劇の体をなしており、あの有名な荒廃したロサンゼルスの未来風景はほぼ無かったとのこと。リドリーはまずここが気に入らなかった。彼が描きたかったのは部屋の中ではなく、外の世界だったのである。とにかく登場人物を部屋から外に出すようにファンチャーに要求した。しかしリドリーは決してファンチャーを無下には扱わず、脚本家として尊重し粘り強く接していたのだが、製作陣(出資者)はリドリーのようなスタンスではなかった。彼らはエンターテインメントとして売れるための要素をあれこれとファンチャーに要求。しまいにはファンチャーには内緒で別の脚本家デヴィッド・ピープルズを雇い、勝手に脚本を改訂してしまうのである。タイトルも『ブレードランナー』に変更され、この改訂された脚本で実制作に向けてスタートを切ることとなるのだ。



『ブレードランナー』TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.


 これはもうファンチャーにとっては悲劇以外の何物でもない。自分が企画して脚本を書いた作品が勝手に改訂され映画制作が進んでいくのである。これは耐えられない屈辱であろう。しかしハリウッドの映画製作システムではこのようなことは日常茶飯事。発言権を持つのはあくまでも製作者(出資者)なのである。作品の最終編集権、いわゆる「ファイナル・カット」ですら監督ではなく製作陣(プロデューサー)が持っているのがほとんどなのだ。このシステムはファンチャーだけでなく、リドリー・スコットの前にも大きく立ちはだかることになってくる。


 なお、ファンチャーは『ブレードランナー 2049』でも脚本家として参加しており、『ブレードランナー』で絵コンテまで描いていて没になったシーンを『ブレードランナー 2049』のオープニングシーンで見事に復活させている。これはもう執念以外の何物でもないだろう。


 さてこうして脚本も決まり、撮影に入ったリドリー・スコットだったが、彼が思い描く世界観構築のためには膨大なお金と手間は避けようがなかった。リドリーのコンセプトを元に、デザインを起こしたシド・ミードの素晴らしい近未来世界は微に入り細にわたった。それらを全て実現させるにはあまりに多くのお金と手間がかかりすぎるのだ。


 また、初めてリドリーと仕事をするハリウッドのスタッフの中には、彼の美学についていけない者も少なくはなかった。例えば、タイレル社の壁には(室内に水が無いにもかかわらず)水の煌めきが反射し独特な空気感が演出されているのだが、スタッフは「なぜ水が無いのに水の煌めきがあるんだ!?」と、リドリーこだわりの美学が理解できなかったという。(ちなみに、この水の煌めき演出は『ブレードランナー 2049』でもしっかりと踏襲されている。)


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 加えて、陰鬱とした近未来のロサンゼルスを表現するため、そして低予算の粗を隠すため、撮影現場は常にナイトシーンとなり、更に雨と煙で覆われることになる。後にリドリーはこう述懐している「私の武器は、夜と雨と煙だった」と。しかしこのせいで、主演のハリソン・フォードはじめ多くのキャスト・スタッフは、連日連夜ズブ濡れとなり、加えて煙の蔓延した最悪の現場に身を晒すこととなってしまう。混沌とした撮影現場は皆を疲弊させ追い詰めていった。。自分の美学を貫き通すためには容赦なく指示を出すリドリー。このイギリスからやってきた男のこだわりを理解できず、対立して辞めていくスタッフもだんだんと増えていった。しかしリドリー・スコットは言う。「私の仕事はDirector(監督)だ。」「Directorとはその名の通りDirect(指示する)ことが仕事なのだ」と。


 撮影現場では自分の美学を貫き通し『ブレードランナー』の圧倒的な世界観を作り上げるべく闘いぬいたリドリーだったが、美学を貫くために必要な場所は現場だけではなかった。終わらない撮影、止まらない出費、これらに歯止めをかけるべく製作陣は撮影中のリドリーを呼び出して度々会議を行った。製作陣は決してリドリー・スコットのパトロンではないのだ。あくまでもビジネスとしてリドリーを雇っているのである。製作陣からリドリーへのプレッシャーは相当なものだったと想像される。


 しかしリドリー・スコットは妥協することはなかった。いや、彼からしてみれば妥協の連続だったかもしれないが、それでも数々の軋轢に負けることなく闘い抜き、あの近未来のロサンゼルスを撮り上げたのである。




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