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『ライトスタッフ』ハイテク=リアルではない!圧倒的なリアリティを実現させた特撮スタッフの努力の結晶

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『ライトスタッフ』ハイテク=リアルではない!圧倒的なリアリティを実現させた特撮スタッフの努力の結晶

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『ライトスタッフ』あらすじ

1947年10月。伝説のテスト・パイロット:チャック・イエーガーがX-1ロケットで初めて音速の壁を破る。1957年10月。ソ連がスプートニクの打ち上げに成功。宇宙計画で大幅に遅れをとった事実をつきつけられたアメリカのアイゼンハウワー大統領は、マーキュリー計画の実現に向けて宇宙飛行士を選出。優れた資質=”ライトスタッフ”を持つ7人のパイロットが顔を揃えた。前人未到の宇宙へ飛び出すヒーローとなった彼らを待っていたのは、死と隣り合わせの危険と一人の人間としての葛藤だった---。



 フィリップ・カウフマン監督は、超音速の壁に挑んだテストパイロットたちや、米国発の有人宇宙飛行を実現させるマーキュリー計画を題材としたノンフィクション「ザ・ライト・スタッフ‐七人の宇宙飛行士」の映画化に取り組む。


 当時は、モーション・コントロール・カメラとオプチカル・プリンターを駆使する、複雑な合成映像が全盛だった。しかしカウフマンは、あえて30年近く時代を逆行したようなローテクをスタッフに要求し、さらに個人で活動する実験映像作家を起用するなど、斬新な方法で特撮シーンを生み出した。


 その結果、今日の目で見てもまったく古さを感じさせない、非常にリアリスティックな映像が実現された。


Index


ジョーダン・ベルソンの起用



 自ら脚本を書き上げた監督のフィリップ・カウフマンは、実制作を開始するに当たって、プロデューサーのロバート・チャートフ&アーウィン・ウィンクラーや、製作スタジオのラッド・カンパニーを説得し、サンフランシスコを拠点に選んだ。彼はハリウッドで仕事するのが嫌いだったのである。そして彼は、かつて製缶会社の倉庫だったウォーターフロントの古い建物にオフィスとスタジオを構え、撮影プランを練り始める。


 実は彼には、ずっと心に残っていたことがあった。それは1977年に中断された、『スター・トレック』の劇場版『Star Trek: Planet of the Titans』のプロジェクトである。この作品には後の「ヴィジャー」の原型となる、宇宙空間を移動する巨大な雲という設定がすでにあった。そしてこの時にカウフマンが考えていたのが、この雲の制作をジョーダン・ベルソンに依頼するということだった。


『スター・トレック』予告


 ベルソンは、サンフランシスコを拠点とする実験映像作家で、50年代はモリソンプラネタリウムブリュッセル万博の、ドームを使ったマルチメディアショー(*1)「ヴォーテックス・コンサート」を行っていた。そして60年代に入ると、インド哲学、ヨガ、仏教などの精神世界をモチーフとしたアブストラクト(抽象)フィルムを立て続けに発表し、ヒッピーたちのグル(導師)になっていく。


 彼は徹底した秘密主義者で、その技法を決して明かそうとはしなかったため、具体的なテクニックは今も謎のままである。


 カウフマンはベルソンと契約し、『ライトスタッフ』向けに16mmのテストフィルムの制作を依頼する。これは、カウフマンが意図している抽象的イメージが、プロデューサーやラッド・カンパニーにサッパリ理解されなかったからだ。とにかくベルソンの作る天界の光のような映像は、言葉で表現するのが難しい。そして、宇宙飛行士が体験する超現実的イメージのサンプル映像が出来上がり、ようやくスタジオの上層部も許可を出すことになる。


 そしてベルソンは、初めて自分のオプチカルシステムに35mmカメラを搭載するが、これまで使ってきた16mmカメラと違って振動が大きく、劇場作品に使えるほどの精度を出すまでに手間取った。また、カウフマンが求める画面のパースペクティブやアングルが、自分のシステムの限界を超えていたため、15回以上もダメ出しをされる。


『ライトスタッフ』本編映像


 そして2年以上掛けて、ようやく美しい映像が完成した。彼が担当した箇所は、チャック・イエーガーがXS-1(1948年以降はX-1)が音速を突破した時に見る、彩雲のような虹色の雲と、リア・プロジェクションの背景。X-1Aでマッハ2.44を記録した瞬間のイエーガーの主観ショット。同じく彼がNF-104Aで成層圏に達した時の高層の淡い大気。さらにマーキュリー計画の乗員たちが見る、オーロラのような幻想的な光。ジョン・グレンフレンドシップ7が飛行中の地球表面の雲と、そのカプセルを取り巻く宇宙ホタルなどである。


*1 今で言うマルチメディアとは意味が異なり、映像、照明、立体音響などを組み合わせた、ライブショーを示す。



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