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『カンバセーション…盗聴…』コッポラが1974年に描いた作品が持つ、現代社会への鋭い警鐘とは

(c)Photofest / Getty Images

『カンバセーション…盗聴…』コッポラが1974年に描いた作品が持つ、現代社会への鋭い警鐘とは

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多くの映画作家に影響を与える今日性



 盗聴や監視は日常生活の中に人知れず潜んでいる。そのことを知っているハリーは、自身のプライバシーを守るために異常に神経質で、どんどん彼の被害妄想は肥大化していく。映画の終盤に至って、他人を盗聴し操っていたハリーが、いつの間にか逆に監視の対象になってしまう。自室に盗聴器が仕掛けられたと疑ったハリーは、部屋の隅から隅まで目を凝らす。床をひっぺがえし、物を破壊し、至る所を探し続けるも、盗聴器は発見されない。


 本当に盗聴器などあるのだろうか。もしかしたら、これは、人一倍プライバシーを侵害されることに固執した、ハリーのパラノイアが生みだした結果なのかもしれない。コッポラは、オープンエンディングにすることで真実を明示していないが、この問いかけはインターネットやSNSが広がった今日の社会で一層アクチュアルな響きを持つのではないだろうか。


 興味深いことに、近年、『ザ・サークル』(17)や『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(17)、『迫り来る嵐』(17)など現代の映画監督が『カンバセーション』から影響を受けたと公言する事例が増えている。この理由のひとつは、おそらくこの映画で描かれる盗聴や監視によってプライバシーが侵食される恐怖やパラノイアの感覚が、私たちが置かれている現代のインターネット社会とより結びつくからだろう。


『ザ・サークル』予告


 2000年の時点でコッポラ自身も、「プライバシーの問題は現在ますます深刻になっている。背景にはインターネットの普及がある。個人情報を集め、それを悪用する人々をどう食い止めるのか。そもそも食い止めることは可能なのか」と吐露している。


 体験のすべてをカメラを通してシェアする、ソーシャルメディア文化が生み出しうる近未来を描いた『ザ・サークル』。監督ジェームズ・ポンソルトは筆者が行ったインタビューで、「かつてたくさん作られたパラノイア型の陰謀論的な物語の中では、ファシズム的/全体主義的な政府が強制的に私たちを監視社会の中に置き、お互いを監視して生きていかなければいけない状況がよく書かれていた」と論じた。


 そして一方で現代では、「スマートフォンを偶像化し崇め奉るような中で、人によっては自分の関係性の中で一番意義深いものが、自分とスマートフォンの関係だという風になってしまっている人もいる」と述べ、次のように自説を表明した。


 「実際の世界でCIAやNSA(アメリカ国家安全保障局)、ウィキリークスを通して監視行為が行われていることも、私たちはある程度わかってはいるけれど、私たちの生きているカルチャーは、CIAやNSAだけでなく、お互いがお互いを監視/スパイしているものであり、色々な形ですべてを記録したり、録画したりすることもできる。もはやそういった社会になり始めています。つまり、私たちは自らの手によって監視社会を作り上げてしまったのだと思います」


 『カンバセーション』は、盗聴を通して、他人のプライベートを覗き見る欲求自体が、お互いを監視し合う社会を生み出すというプライバシーの危機の問題に、一早く警鐘を鳴らしているのである。



文:常川拓也

「i-D Japan」「キネマ旬報」「Nobody」などでインタビューや作品評を執筆。はみ出し者映画を特集する上映イベント「サム・フリークス」にもコラムを寄稿。共著に『ネットフリックス大解剖』(DU BOOKS)。



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