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『プリンセス・ブライド・ストーリー』劇場公開時はヒットせずも、ビデオ化で凄まじい人気を得たファンタジックコメディ

(c)Photofest / Getty Images

『プリンセス・ブライド・ストーリー』劇場公開時はヒットせずも、ビデオ化で凄まじい人気を得たファンタジックコメディ

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おとぎ話の形式を借りた、メタフィクションな物語



 『プリンセス・ブライド・ストーリー』は多層的で複雑な構造を持った作品だが、あらすじは非常にシンプルなおとぎ話のバリエーションだ。


 主人公は、世界一美しい女性キンポウゲ(字幕ではバターカップ)と、農夫の若者ウェスリー。恋に落ちたふたりは結婚を誓い、ウェスリーは一旗揚げようとアメリカに旅立つ。ところがほどなくして、ウェスリーが海賊船に襲われて殺されたという報せが届く。失意に沈んだキンポウゲは、国の王子フンパーディンク(クリス・サランドン)の妃になることを承諾。しかし結婚式も近いある日、三人組の悪漢に誘拐されてしまう。生命の危機が迫る中、黒いマスクと黒装束の謎の男がキンポウゲを救いに現れる……。


 絶世の美女であるプリンセス、正体を隠したヒーロー(かなりバレバレだが)、ピュアな恋物語と熱い復讐劇が、ハラハラドキドキの冒険譚に華を添える。ゴールドマンは、小説版の中で(半ばギャグとして)ハッキリと書いている。「真実の恋と手に汗握る冒険物語の名作」と。ただし、プロットだけを追うと駆け足で薄味に感じがちなのは、この物語が本来“抜粋版”という体裁で描かれているからだ。



『プリンセス・ブライド・ストーリー』(c)Photofest / Getty Images


 『プリンセス・ブライド』の小説は、もともとはゴールドマンのふたりの娘たちのために書かれた。ただし、すでに小説家として成功し、脚本家としてもハリウッドの寵児となっていたゴールドマンは、子供向けのストレートなおとぎ話を書こうとはしなかった。映画版では割愛されているが、小説はゴールドマン自身の体験を振り返る長いプロローグから始まる。肺炎で療養を余儀なくされた10歳の時、父親が枕もとで読んでくれた本のタイトルが「プリンセス・ブライド」だったというのだ。


 実はこの時点で、ゴールドマンは大ボラを吹いている。父が読んでくれた「ブリンセス・ブライド」は、父の祖国であるフローリンの文豪S・モーゲンスターンが書いたと紹介されているのだが、フローリンなんて国もS・モーゲンスターンなんて作家も実在しない。すべてはゴールドマンの創作であり、現実とファンタジーをごた混ぜにしたメタフィクションであることが本作の肝になっているのである。


 原作本では、ゴールドマンが自分の息子に「プリンセス・ブライド」の魅力を伝えたくて、長大な書物から面白おかしい部分を抜粋したことになっている。そして抜粋されたストーリーと、子供の頃から「プリンセス・ブライド」に夢中になったゴールドマン自身の物語が二本柱で同時進行するのだ。


 言うなれば、ゴールドマンが脚色した映画版のシナリオは、原作本に収録された“娯楽抜粋版”をさらに抜粋したものだと言える。それゆえに、展開が早すぎたり、あっさりしてるように感じる人もいるかも知れないが、本作の核はプロットにはない。あくまでもプロットは、作品の世界観や哲学を伝えるための乗り物に過ぎないのである。



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