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『デッド・ドント・ダイ』ジャームッシュが込めた、文明批評とジョージ・A・ロメロへのリスペクト

(c)2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.

『デッド・ドント・ダイ』ジャームッシュが込めた、文明批評とジョージ・A・ロメロへのリスペクト

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ジャームッシュ一家勢揃いのキャスティング



 ただ、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は超低予算作品ゆえ、出演者の多くはアマチュアだったが、『デッド・ドント・ダイ』は多彩なキャストが揃っていて、俳優たちの個性が映画の見どころのひとつになっている。


 ジャームッシュ監督とはすでに『ブロークン・フラワーズ』(05)で組んだビル・マーレイが警察署長を演じ、彼の右腕的な巡査を『パターソン』(16)のアダム・ドライバー、さらに『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』のティルダ・スウィントン、『ギミ―・デンジャー』(16)のイギー・ポップ、『ブロークン・フラワーズ』のクロエ・セヴィニー、『ミステリー・トレイン』(89)のスティーヴ・ブシェミ、『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)のロージー・ペレス、『ダウン・バイ・ロー』(86)のトム・ウェイツ、『ゴースト・ドッグ』(99)のRZAと、ジャームッシュ一家が勢揃い。


 マーレイとドライバーのどこか少しずれた感じの会話も楽しいが、特にインパクトがあるのがティルダ・スウィントンで、スコットランド人の葬儀屋という異色の設定。柔道着を着て、日本刀をふりまわす、という、日本人から見ると、おかしな東洋趣味のある人物だが、スタイリッシュなティルダが演じると、それなりにサマになっている。



『デッド・ドント・ダイ』(c)2019 Image Eleven Productions Inc. All Rights Reserved.


 イギー・ポップは「コーヒー!」しかセリフがないコーヒー・ゾンビに扮して怪演を見せる。また、世捨て人、ボブをトム・ウェイツが演じているが、映画の影の語り部ともいうべき人物で、すごく味のある演技を見せる。


 雑貨店で働くホラー映画オタクのケイレブ・ランドリー・ジョーンズも印象的なキャラクターで、ノスフェラトゥ(吸血鬼)のTシャツを着て、ゾンビ映画の知識もたっぷり(ジョージ・ロメロの車に関しての雑学も披露する)。


 スティーヴ・ブシェミはトランプ時代を風刺するような白人至上主義者役で、ダイナーでコーヒーを飲みながら、危ないジョークを言う――「このコーヒー、あまりにも黒すぎるな(too black)」。それを聞いて、黒人のダニー・グローバー扮するハンクが、一瞬、顔をゆがめる、という場面も用意される。


 また、この映画のためにカントリー調のオリジナル曲を提供しているスタージル・シンプソンはグラミー賞のカントリー・アルバム賞を受賞したこともある実力派シンガーだが、劇中にはギターをひっぱるゾンビ役で出演している(彼が書いた「死者は死なない。彼らは、かなえられなかった夢を抱えた幽霊たち」という歌詞には映画のテーマが託される)。


 そんなスタージルの曲を愛聴しているという設定で出ているのが、ミュージシャンとしても、俳優としても活躍するセレーナ・ゴメス。都会からセンターヴィルに遊びにきた旅人役で、ジャームッシュ映画デビューとなった。


 ジャームッシュのインタビューによれば、『007』シリーズのボンド役で知られるダニエル・クレイグも出演予定だったが、最終的にはスケジュールの都合で流れてしまった(ダニエルの役はカット。残念!)。


 ジャームッシュ・ファンとして、ちょっとうれしかったのは、監督の長年のパートナーでもあるサラ・ドライバーの出演だろう(イギー同様、コーヒー・ゾンビ役)。ジャームッシュ作品に製作でかかわることもあり、初期作品には俳優として顔を見せていたが、今回は『ミステリー・トレイン』以来、約30年ぶりのゲスト出演となった。



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