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『ミラーズ・クロッシング』フィルム・ノワールの裏に隠された、報われない恋の物語

(c)Photofest / Getty Images

『ミラーズ・クロッシング』フィルム・ノワールの裏に隠された、報われない恋の物語

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『ミラーズ・クロッシング』あらすじ

1929年、禁酒法時代のアメリカ東部のある街。アイルランド系とイタリア系のボスが暗黒街で激しく勢力を争っていた。街を取り仕切るアイルランド系の大ボス、レオ。レオと固い男の絆で結ばれたバクチ打ちのトム。2人から愛されるしたたかな娼婦のヴァーナ。姉のヴァーナに守られて裏切りを重ねるチンピラのバーニー。 裏切り、陰謀、欲望が渦巻き血なまぐさいギャング戦争の火蓋が切って落とされた──!


Index


“森の中に佇むギャングたち”から生まれたフィルム・ノワール



 コーエン兄弟は、これまで数多くのオリジナル脚本を手がけているが、既存の文学作品を手がかりにして着想を得た映画も多い。『ビッグ・リボウスキ』(98)はレイモンド・チャンドラーの「大いなる眠り」、『バーバー』(01)はジェームズ・M・ケインの「殺人保険」、『オー・ブラザー!』(00)は古典叙事詩「オデュッセイア」。


 『ミラーズ・クロッシング』(90)もまた、ダシール・ハメットが1931年に発表したハードボイルド小説「ガラスの鍵」の影響を大きく受けている。町の実力者マドヴィグと、彼に絶対的な忠誠を誓うネドの関係は、そのままレオ(アルバート・フィニー)とトム(ガブリエル・バーン)の関係に当てはめることができるだろう。しかし、コーエン兄弟はこのストーリーから帰納法的にプロットを紡ぎあげたのではない。むしろ彼らは、あるぼんやりとしたイメージから映画を膨らませた。


『ミラーズ・クロッシング』予告


 森の中にオーバーを着たギャングの大物たちがいる。森という情景に都会のギャングを配したアンバランス…。そういうひとつのイメージから、この映画は想を練っていった。(劇場プログラムより抜粋)


 だが、“森に佇むギャングたち”という視覚的イメージを先行したシナリオ作りは難航を極める。コーエン兄弟は2ヶ月間作業を棚上げし、その間に『バートン・フィンク』(91)の脚本を書き上げてしまったくらいだ。苦難を経て『ミラーズ・クロッシング』のストーリー作りは完成するが、出来上がった作品はハリウッド的娯楽作品からは遠く離れた、異色のフィルムノワール。前作『赤ちゃん泥棒』(87)の成功を受け、より多くの予算、より野心的な映画を撮る機会を与えられていたからこそ、『ミラーズ・クロッシング』は産み落とされたのである。



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