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『アンタッチャブル』キャリアの再起をかけた3人が邂逅した、ギャング映画の傑作

(c)Photofest / Getty Images

『アンタッチャブル』キャリアの再起をかけた3人が邂逅した、ギャング映画の傑作

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ケヴィン・コスナーの不遇



 一方、ケヴィン・コスナーは『アンタッチャブル』のプロデューサーであるアート・リンソンの推薦だった。当時のコスナーは『女優フランシス』(82)や『ワン・フロム・ザ・ハート』(82)、『再会の時』(83)といった話題作に出演しながらも、出演場面がことごとくカットされるという不遇の時代にあった。マシュー・ブロデリックが主演した『ウォー・ゲーム』(83)の主役を断ってまで出演を熱望し、助演ながらも出演した『再会の時』に至っては、上映時間を短くするためにケヴィンの出演場面がすべてカットされている。


 『再会の時』は、友人の自殺を機に大学時代の仲間たちが15年ぶりに再会するという物語。そう、ケヴィンは自殺した友人を演じていたのだ。彼が出演していたであろう痕跡は、かすかに映る遺影に確認できるのみだ。そんな経緯から、ケヴィン・コスナーは当時のハリウッドで、「編集室の床に寝転がる男」と呼ばれていたという。出演した場面のフィルムが使われることなく、(床に)捨てられていたことを揶揄されてのことである。


 一般的にはほぼ無名のケヴィン・コスナー起用に対する不安から、ブライアン・デ・パルマは映画仲間であるスティーヴン・スピルバーグとローレンス・カスダンに電話で相談したと述懐している。スピルバーグは、自身が手がけたテレビシリーズ『世にも不思議なアメージング・ストーリー』(85)シーズン1の第5話にあたるエピソード「最後のミッション」(日本では劇場公開された)を監督しているが、その主演にケヴィンを起用していた。またカスダンは、西部劇『シルバラード』(85)でスコット・グレンの弟役としてケヴィンを主要キャストに抜擢していただけでなく、『再会の時』の監督でもあったからだ。



『アンタッチャブル』TM & Copyright (C) 1987 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.


 ケヴィン・コスナーの起用について尋ねたところ、二人とも「ケヴィンは必ず大物になる」と口を揃えて断言。実はアート・リンソンも『シルバラード』に出演していたケヴィンを見て、脚本が完成する前から声をかけていたのだ。ちなみに『ウォー・ゲーム』で組むことが叶わなかったジョン・バダム監督も、次作『アメリカン・フライヤーズ』(85)でまだ無名に近かったケヴィンを主役に起用している。「編集室の床に寝転がる男」と揶揄されながらも、彼の俳優としての実力は、徐々にハリウッド内で知れ渡り、いつしか「一緒に仕事をしてみたい俳優」になっていたのだ。


 当時、筆者はカナダの映画館で『アンタッチャブル』を観ている。シネコンでは同時期に『追いつめられて』(87)も上映されていて、『ファンダンゴ』(85)でいち早くケヴィンのファンになっていたこともあり、「ケヴィン・コスナーの時代が来た!」と鼻高々だったという思い出がある。


 ちなみに、ケヴィン・コスナーと、当初ネス役の有力候補だったドン・ジョンは、実生活でも親しい友人同士。のちに『ティン・カップ』(96)で共演を果たしているが、ドン・ジョンソンは不遇だったケヴィンがネス役に起用されたことを誰よりも喜び、ひとり祝杯をあげたことを後年になって告白している。とはいえ、監督のブライアン・デ・パルマは、ロバート・デ・ニーロ演じる大物ギャングとの対決に、ほぼ無名の俳優が太刀打ちできるのかという不安を感じ、起用には消極的だったのだという。


 そのロバート・デ・ニーロが演じて強烈な印象を残したアル・カポネ役も、実は別の役者が演じるはずだった。それは『モナリザ』(86)で注目を集めていたイギリス出身のボブ・ホスキンス。既にショーン・コネリーがキャスティングされていたことから、アメリカのギャング映画のはずなのに、どこか洗練されたイギリスの舞台劇のようになってしまうことを、デ・パルマは危惧し、採用を見送った。



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