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『TENET テネット』回文タイトルが暗喩するノーランの創造的ターン ※注!ネタバレ含みます。

(c) 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

『TENET テネット』回文タイトルが暗喩するノーランの創造的ターン ※注!ネタバレ含みます。

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正逆の運動が入り混じる奇観な映像(※注!ネタバレ含みます。)



 本作の主人公がジェームズ・ボンド映画と違うのは、対峙する敵が未来からの来訪者であり、時間の流れに逆らった進撃を展開させていくという、特異な設定を有しているところだろう。連中は時間の方向をコントロールするシステムを用いて、過去へと干渉してくるのだ。


 そのため本作では、時間の流れや互いの運動が正逆でぶつかりあう、異様を極めた映像を観ることができる。周囲の運動が逆走していく中で、被写体が前進していく変わったレイアウトや、逆再生のように動く敵との銃撃戦やカーチェイスなど、どのアクション場面も新鮮かつ奇観だ。



『TENET テネット』(c) 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved


 似たような視覚表現は近年『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(16)や『ドクター・ストレンジ』(16)で、時間運動を逆回させることで崩壊を食い止めるシチュエーションなどに用いられているが、一方向ではない、時間の対称性や交わりがここまで可視化されたのは、同規模のブロックバスター作品においてレアなケースだろう。


 こうした均衡や常識の崩れが本作最大の特徴でもあり、また論争を巻き起こしているポイントともいえる。いわく「理解が及ばない」「難しい」etc——。もっとも商業長編劇映画で、これほどの抽象描写にお目にかかることなどないのだから、戸惑いや混乱が先立つのも無理はない。


 だがこうした、観客に配慮しない作りこそが、作品への能動的な参加をもたらし、幾度となく劇場に通うといった行為を促進させる。新型コロナウイルスの感染拡大によって、抑制を余儀なくされたエンタテインメント市場。本作はそんな疲弊した界隈において、福音を与える存在となりうるかもしれない。



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