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『鬼滅の刃』に宿る名作漫画への敬愛と「人の弱さ、心の強さ」の美学『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

『鬼滅の刃』に宿る名作漫画への敬愛と「人の弱さ、心の強さ」の美学『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

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『ジョジョの奇妙な冒険』に対する、深い敬愛



 『ジョジョの奇妙な冒険』といえば、「スタンド」が有名だが、実はこの特殊能力が登場するのは第三部から。第一部と第二部は、人の生き血をすする吸血鬼(日光に弱い)や究極生命体に対し、特殊な「呼吸」を習得し、太陽のエネルギーを宿した「波紋」をぶつけることで、人間が戦いを挑む姿が描かれる。


 そう、「太陽」「呼吸」「限りある命の人間と、ほぼ不死身である怪物の戦い」など、『ジョジョの奇妙な冒険』は『鬼滅の刃』と非常に多くの類似性がみられる。ちなみに一部の敵は吸血鬼だが、二部の敵は吸血鬼をも凌駕する究極生命体であり、これらの設定は『鬼滅の刃』の“ラスボス” 鬼舞辻無惨を想起させる。


 そのほか、キャラクターたちが「気高く生き、散っていく」描写、各々が生き様を言霊に乗せ、力強く叫ぶセリフ、残酷な描写もいとわないバトルシーンの“痛み”など、作品に流れる精神性も『ジョジョの奇妙な冒険』からの強い影響を感じさせる。『ジョジョの奇妙な冒険』に顕著な「人間讃歌」や「黄金の精神(正義の心)」といったテーマ性も、『鬼滅の刃』の根底に流れる信条といえよう。


TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 第2部』予告


 また、鬼殺隊の組織構造は『BLEACH』にも通じ、剣術の“型”の描写は『るろうに剣心』とも比較できる。吾峠氏は他にも『銀魂』をお気に入り作品に挙げており、ギャグとシリアスの切り替えは、ここから学んだとも考えられる。各キャラクターが技名を叫ぶ「技の名乗り」も、非常に少年漫画的だ。


 さらに、「人はすぐ強くならない」という精神のもと、修行シーンもしっかりと描写。これは近年の漫画では割と減ってきた部分であり、主人公の鍛錬をじっくりと時間をかけて描くのは、近年のジャンプ作品では本作と『僕のヒーローアカデミア』くらいかもしれない。


 「努力」の部分に加え、「友情」と「勝利」も非常にバランスよく作られており、炭治郎と善逸、伊之助たちの“同期組”の「横のつながり」や、兄弟子である冨岡義勇や先輩である煉獄杏寿郎との「縦のつながり」がしっかりと描かれている。炭治郎が彼らと連携技を繰り出すシーンは少年漫画の華といえるし、ことバトルシーンにおいて、“燃える”展開の構築が滅法上手い。


 加えて、『鬼滅の刃』が興味深いのは、炭治郎と禰豆子の「家族の絆」に重きが置かれていること。兄と妹がコンビを組んで戦うのはなかなかに新鮮な組み合わせで、兄弟のキャラクター設定も斬新。「兄は超がつくほど真面目で、敵に対しても慈悲深い」「妹はほとんど話せず、戦闘中に幼児化←→成長を行き来する」といったような設定は、本作ならではといえるだろう。『鬼滅の刃』が名作漫画のエッセンスを受け継ぎつつも、独自性をしっかりと打ち出していることがよくわかる。


 そして、『鬼滅の刃』が決定的に秀でていて、多くの支持を獲得した要因――それが、圧倒的なドラマ性だ。



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