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『ザ・エージェント』とことんピュアな映画監督、キャメロン・クロウの「愛と信頼」が詰まった傑作

(c)Photofest / Getty Images

『ザ・エージェント』とことんピュアな映画監督、キャメロン・クロウの「愛と信頼」が詰まった傑作

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『ザ・エージェント』あらすじ

ジェリー・マクガイアは、国際スポーツ・マネージメントの会社SMIに所属する敏腕スポーツ・エージェント。同業種では全米一の規模を誇る大手企業で72人のプロ選手を抱え、華やかな世界のサポートに忙しい日々。しかし利潤ばかり追求する会社の方針に従って、時には担当選手の不祥事を揉み消したりなど、いかにもビジネスライクな仕事のやり方には内心失望を覚えていた。会社に提案書を提出するがあっさりとクビになってしまい、彼はただ一人共感してくれた会計係のドロシーと共に独立するが、クライアントは、落ち目になったアメリカン・フットボールの選手ロッドだけだった……。


Index


繰り返される「どん底に陥った男の再生劇」の原型



 最近ふと、こう呟きたくなる時がある。どうした!? キャメロン・クロウ監督、と。


 かつてあんなに輝いていた彼が、ここ数年は鳴りを潜め、なかなか新作も発表されない。いま、再び第一線に復活して欲しい現役の監督は?――と映画ファンに訊いたなら、クロウの名を挙げる人はたくさんいるに違いない。


 キャメロン・クロウが途端に精彩を欠くようになった転換点は、実はハッキリしている。2010年、22年連れ添ったパートナーであり、彼の映画の音楽担当でもあったロックバンド「ハート」のギタリスト、ナンシー・ウィルソンと離婚してからだ。これは私生活とキャリアを無神経に関連づけるゲスの勘ぐりというわけではなく、驚くほど明確に、クロウはあれから調子を崩してしまった。もっともクロウの映画をよく知る人なら、もの凄くピュアな恋愛の形を描き続けてきた監督だけに、この痛手の程は腑に落ちてしまうのではないか。


 言うならば現在のキャメロン・クロウは、彼自身が、自分の映画の主人公のようでもある。正確に記すなら「主人公の前半モード」だろうか。なぜならクロウは「どん底に陥った男の再生劇」を繰り返し描いているからだ。


 そのパターンの始まり(原型)が、1996年の人気作『ザ・エージェント』である。


『ザ・エージェント』予告


 主人公は国際スポーツ・マネージメントの会社SMIに所属する敏腕スポーツ・エージェントのジェリー・マクガイア(トム・クルーズ)。同業種では全米一の規模を誇る大手企業で72人のプロ選手を抱え、華やかな世界のサポートに忙しい日々。しかし利潤ばかり追求する会社の方針に従って、時には担当選手の不祥事を揉み消したりなど、いかにもビジネスライクな仕事のやり方には内心失望を覚えていた。


 「僕はスーツを着た人食い鮫? 汚い仕事がイヤになった」。そこでジェリーは、ある夜中に突然思い立ち、25ページにも及ぶ会社へのミッション・ステートメント(Mission Statement――日本語字幕では「提案書」。実際は「使命宣言」くらいの強い意味かと)を一気に書き上げる。それは偉大なるスポーツ・エージェントの元祖、故ディッキー・フォックス(当時ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの重役を務めていた弁護士のジャリッド・ユッシムが演じる架空のキャラクター)の「この仕事の原点は選手との人間関係だ」といった格言を織り込み、本来の理想の精神に立ち返ることを勇ましく訴えた内容だった。


 しかし、そのステートメントが災いしてあっけなくクビに。35歳にしてフリーランスとしての再出発を余儀なくされたジェリー。大口を叩いて会社を後にするが、彼に付いて行ったのは水槽の中の金魚1匹と、経理部の事務員であり、小さな息子を持つシングルマザーのドロシー・ボイド(レネー・ゼルウィガー)だけだった――。ちなみにドロシーはジェリーの提唱した理想主義に感銘を受けているのだが、そのステートメントのことを「メモ」と呼ぶのが可笑しい。



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