1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. エンゼル・ハート
  4. 『エンゼル・ハート』アラン・パーカーの世界観に染まる、ミッキー・ロークの悲哀
『エンゼル・ハート』アラン・パーカーの世界観に染まる、ミッキー・ロークの悲哀

(C)1987 StudioCanal. All Rights Reserved.

『エンゼル・ハート』アラン・パーカーの世界観に染まる、ミッキー・ロークの悲哀

PAGES


パーカー映画の原動力、音楽



 アラン・パーカー映画の重要な要素となっているのは音楽だ。この映画のサントラに掲載されたエッセイの中で、パーカーは自身の音楽観をこう語っている。


 「私の映画にとって音楽はいつも重要な意味を持っている。そして、それぞれの映画によって、その曲が生まれる背景が異なっている。『フェーム』(80)ではマイケル・ゴアが音楽を作り、私がそれに合わせて場面を書いた。また、『ピンク・フロイド ザ・ウォール』(82)ではロジャー・ウォーターズの歌詞と曲が映画全体の語り部となった。(中略)『エンゼル・ハート』に関してはトレヴァー・ジョーンズに音楽を依頼した。彼の『暴走機関車』(85)の音楽が気にいっていたからだ。(中略)さらに、すばらしいブルースシンガー、ブラウニー・マギーにはトゥーツの役を演じてもらうことになった」


 映画でブラウニー・マギーが登場するのは、ニューオリンズのクラブの場面である。彼は自身のバンドを従え、ブルース「レイニーデイ」を歌う。ニューオリンズはジャズ発祥の地としても知られているが、この街の大衆酒場で歌われるブルースには泥くさい魅力があふれている。


 マギーは物語の鍵を握る人物のひとりで、ハリー・エンゼルと話をする場面では自然な演技を見せる。何も知らないで見たら、プロのアクターと思うだろう(マギーの演技を、アメリカの国民的な映画評論家、ロジャー・エヴァートも、当時、評価していた)。



『エンゼル・ハート』(C)1987 StudioCanal. All Rights Reserved.


 マギーは1939年から盲目のブルースマン、ソニー・テリーとコンビを組み、ふたりはブルース史上に名前を残すコンビといわれていたが、そんな伝説のブルースマンをさりげなく起用してみせるあたりに音楽通として知られるパーカー監督のこだわりが感じられる。このクラブの場面には、ジャズやブルースなどのアルバムを出している女性シンガー、リリアン・ボーテも登場して、パンチのある声で「ザ・ライト・キー・バット・ザ・ロング・ホール(キーホール・ソング)」を歌う。


 後半ではハリーとエピファニー(リサ・ボネット)が雨漏りのする安宿でダンスを踊る場面が印象的だが、そこで流れるのはR&B系のシンガー、ラヴァーン・ベイカーの「ソウル・オン・ファイアー」。ベイカーは50年代から60年代にかけて、ヒットを放ったシンガーだが、これは53年の曲。


 さらにニューオリンズ音楽の代表的なミュージシャンのひとりで、コンサート映画の傑作『ラスト・ワルツ』(78)にも出演していたドクター・ジョンの曲、「ズー・ズー・マモン」がトゥーツの車をハリーが尾行する場面で流れ、怪しげな南部の夜の雰囲気を盛り上げる。


 また、ニューヨークのハーレムの場面で出てくるゴスペルは映画用のオリジナル曲で『フェーム』にも参加していたアンソニー・エヴァンスが映画のために書き下ろしたという。


 ゴスペルが流れるニューヨークのハーレムから、泥くさいブルースが聞こえるニューオリンズへ。そんな黒人音楽の流れが、映画版『エンゼル・ハート』では雰囲気作りにひと役買っている。


 一方、甘くロマンティックな曲も登場する。ハリーがゆくえを追う人気歌手、ジョニー・フェイヴァリットのモチーフとなっているのが、37年の曲「ガール・オブ・マイ・ドリームス」。パーカー監督は数多くの候補曲を聴き、すごく有名ではないものの、それなりに知られている曲を、ということで、決めたという。トレヴァー・ジョーンズの不気味でダークなテーマ音楽にも、この曲の一部が盛り込まれ、英国出身の人気ジャズミュージシャン、コートニー・パインの渋いサックスの音が、じわじわと聴く人の心にしみこんでいく(こわい曲と甘い曲のミックスが絶妙!)。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. エンゼル・ハート
  4. 『エンゼル・ハート』アラン・パーカーの世界観に染まる、ミッキー・ロークの悲哀