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『ウルフウォーカー』ケルトの伝承に着想を得た至極のアニメーション体験

© WolfWalkers 2020 

『ウルフウォーカー』ケルトの伝承に着想を得た至極のアニメーション体験

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『ウルフウォーカー』あらすじ

1650年、アイルランドの町キルケニー。イングランドからオオカミ退治の為にやってきたハンターを父に持つ少女ロビン。ある日、森で偶然友だちになったのは、人間とオオカミがひとつの体に共存し、魔法の力で傷を癒すヒーラーでもある “ウルフウォーカー”のメーヴだった。メーヴは彼女の母がオオカミの姿で森を出ていったきり、戻らず心配でたまらないことをロビンにうちあける。母親のいない寂しさをよく知るロビンは、母親探しを手伝うことを約束する。翌日、森に行くことを禁じられ、父に連れていかれた調理場で、掃除の手伝いをしていたロビンは、メーヴの母らしきオオカミが檻に囚われていることを知る。森は日々小さくなり、オオカミたちに残された時間はわずかだ。ロビンはなんとしてもメーヴの母を救い出し、オオカミ退治を止めなければならない。それはハンターである父ビルとの対立を意味していた。それでもロビンは自分の信じることをやり遂げようと決心する。そしてオオカミと人間との闘いが始まろうとしていた。


Index


人間とオオカミ



 古来、日本では動物霊は幸福の象徴か、またはその真逆で、災いの神としての信仰が残っている。それらの伝承ではキツネ、イヌ、ヘビなどの動物霊が一般的で、動物霊に憑依された人間は精神が蝕まれてゆくとか、あるいは、幸福をもたらすとかいう様々な言い伝えがある。


 ヨーロッパ諸国では、オオカミによる憑きものが信じられており、日本のキツネ憑きのように様々な事例が報告されている。アイルランドのアニメーション・スタジオ、カートゥーン・サルーンの最新作『ウルフウォーカー』(20)が描くのは、中世オッソリー王国(アイルランドの古い王国で、現在はキルケニー県とリーシュ県で構成されている)に伝わるオオカミ人間の伝承がテーマだ。オオカミ人間(人狼)の伝承は古くは古代ギリシャにさかのぼる。ギリシャ神話の中にはオオカミのモチーフがたびたび登場し、ローマ帝国末期には人間が獣化する現象が報告されたりしている。


『ウルフウォーカー』予告


 古代ケルトでは人間はオオカミに変身できるとされており、記録では、友人や家族に体を見張ってもらえば、人間の体を残してオオカミに変身できるという。オオカミの姿で受けた傷は、元の人間の体にも反映される。『ウルフウォーカー』の物語は、古代ケルトに伝わるこれらの記録を下書きとしている。


 古代ケルトではオオカミは神聖な存在として崇められており、人間とオオカミとの共生社会が成り立っていたとされる。それは日本も同様で、オオカミといえば神聖なイメージの動物だったが、1905年に最後の一頭が死に、日本からオオカミは消えたとされている。


 アイルランドでは清教徒革命を機にオオカミへのイメージが一変する。清教徒革命でオリバー・クロムウェルの軍隊がアイルランドに攻め入ると、オオカミは邪悪の対象として扱われるようになった。イングランドからはオオカミハンターが雇われ、オオカミの駆除には一頭につき多額の報奨金が支払われるようになった。


 アイルランドは急速な近代化にともなって森林を伐採し、オオカミの住処を次々に奪っていった。そうして住処を失ったオオカミはたびたび街に現われると、家畜や作物を襲うようになった。『ウルフウォーカー』では近代化によるオオカミ減少の背景と、護国卿オリバー・クロムウェルによるアイルランドの独裁的支配を描くなど、歴史的な側面も真摯に活写している。


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