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『L.A.コンフィデンシャル』娯楽と芸術を高い水準で成立させた、傑作フィルム・ノワール

(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『L.A.コンフィデンシャル』娯楽と芸術を高い水準で成立させた、傑作フィルム・ノワール

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現代にも通じるアメリカの病理



 しかし、話はそれで終わらなかった。解決したと思われた事件の真犯人は別に存在していたのだ。バドはそのことに直感で気づき、エドもある被害者の新証言によって、そのことを知ることになる。再び事件の捜査を始める3人の刑事たち……。だが、彼らが追う真相は想像を超えた、あまりにもおそろしいものだった。この凄まじい展開こそ、原作者ジェイムズ・エルロイが、“狂犬”と呼ばれる理由である。


 本作に登場する、最初に逮捕される黒人少年たちは、事件当時に近くの公園にいたことで疑われるという描かれ方がされる。これは1989年に発生した、ニューヨークのセントラル・パークで起きた性的暴行事件で、やはり近くにいた黒人少年たちが逮捕され、刑事による執拗な誘導尋問によって有罪にされた問題に非常に似ている。この実際の事件は、リミテッドTVシリーズ『ボクらを見る目』(19)に詳しく描かれている。



『L.A.コンフィデンシャル』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 犯罪の容疑者として、まず黒人の市民が疑われ、厳しい尋問や人権を蹂躙されるような扱いを受けるという状況は、舞台となった時代はもちろん、原作が発表された90年代、そして現在まで継続して続いている。劇中では、少年たちから得た情報が、ある凶悪な事件を解決する手がかりになるのは確かなのだが、それがナイト・アウル事件の真犯人の存在を覆い隠すことにつながってしまう。


 本作にこのような視点が存在するのは、映画においてスパイク・リーやジョン・シングルトンなどのように、黒人が黒人の差別問題を描く流れが活発になってきていた90年代に、原作小説が発表され、本作が撮られたという部分も大きいだろう。


 本作が真に描くのは、“夢の街”である1950年代のロサンゼルスが隠している、裏の表情だ。そこには人種差別も性差別も存在するが、それらの被害が表沙汰にならず、闇に消えていくことも少なくなかった。事情があって嘘の証言をしてしまう先住民の女性や、有力者の性のはけ口となる俳優志望の青年、女優のたまごたちが整形して有名女優そっくりな娼婦となるなど、この街では常に、夢を持つ者や弱者が、悪人たちに蹂躙され食い物にされる。



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