1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. レ・ミゼラブル
  4. 『レ・ミゼラブル』ミュージカル映画としては異例の「撮影しながら生の歌を録音」で大成功
『レ・ミゼラブル』ミュージカル映画としては異例の「撮影しながら生の歌を録音」で大成功

(c)Photofest / Getty Images

『レ・ミゼラブル』ミュージカル映画としては異例の「撮影しながら生の歌を録音」で大成功

PAGES


俳優にすべてを任せ、ワンテイクで歌い切らせる



 多くのシーンで1曲をフルで歌いきり、ワンテイクで撮るという、舞台さながらの演出も行われたので、俳優は自由に動き、演技をすることができた。その結果、トム・フーパー監督も現場で俳優たちの演技に想定外の感銘を受け、ミュージカル映画では珍しく、クローズアップが多用されることになる。フーパーは多くのアングルで撮ったものの、俳優の表情に心を揺さぶられたために、クローズアップが多くなってしまったのだ。ちなみにトム・フーパーと撮影監督のダニー・コーエンは、70mmフィルムで今作を撮影しようと考えたが、製作費と、手持ちカメラでの自由な動きが難しくなることから断念している。


 フーパーが選択したこの特殊な手法に、俳優たちも「演技に気持ちが込められる」と賛同したものの、彼らはつねに最適な状態に声帯を保つ必要があった。そのため、撮影中は「禁酒」が命じられたという。ラッセル・クロウやアマンダ・サイフリッドら、お酒好きのキャストは忍耐を強いられ、すべての撮影が終わった瞬間、ラッセルはアマンダにウイスキーのボトルをプレゼントした。

 

『レ・ミゼラブル』(C) 2012 Universal Studios.ALL RIGHTS RESERVED


 ジャン・バルジャン役のヒュー・ジャックマンは、演技と歌が地続きになりやすいこの撮影スタイルを次のように振り返っていた。


 「トム(・フーパー)は、歌い方について細かい指示を出さず、僕らにすべてを任せてくれた。感情がキープできなければ歌を止めてもいいし、感情が高ぶれば涙を流しながら歌い続けることもできたんだ。舞台との最大の違いは、感情が高ぶるシーンでも静かなトーンで伝えられること。舞台ではある程度、声量を大きくして演じないと観客に届かないからね」


 ファンテーヌ役でアカデミー賞助演女優賞に輝いたアン・ハサウェイは、この撮影スタイルについて「すばらしいアイデアだけど、正直、無謀だと思った」と当初の本音を語った。彼女によると、撮影現場で歌っただけでなく、スタジオでも歌を録音したという。


 「完成作を観たとき、たぶん撮影中の音源が70%で、スタジオ録音の音源が30%くらいだと感じた。つまり本番で不足している部分を、スタジオのきれいな音でかぶせているのだろうと。でも監督に聞いたら、ほぼ本番中の音だと言われ、驚いたの」演じた本人にとっても、その完成度は想定外だったようだ。


 ただし撮影自体は過酷を極めた。ジャン・バルジャンのクライマックスは、午前1時、セット内を極寒の状況にして撮影された。またセット外でのロケでも、キャストは実際に歌っていたそうで、ヒュー・ジャックマンは「海岸に近い高い山の上で撮影したシーンもある。僕の両手は紫色になり、呼吸をするのも辛かった。映像には僕の白い息も映り込んでいるが、あれはすべて本物。先日登った富士山の山頂よりも空気が薄かったんじゃないかな」と、来日時の思い出と重ねて語ってくれた。


PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. レ・ミゼラブル
  4. 『レ・ミゼラブル』ミュージカル映画としては異例の「撮影しながら生の歌を録音」で大成功