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  4. 『LOOPER/ルーパー』タイムスリップ、特殊メイク、超能力…、複雑な要素をクレバーに織り成すライアン・ジョンソンの手腕 ※注!ネタバレ含みます。
『LOOPER/ルーパー』タイムスリップ、特殊メイク、超能力…、複雑な要素をクレバーに織り成すライアン・ジョンソンの手腕 ※注!ネタバレ含みます。

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『LOOPER/ルーパー』タイムスリップ、特殊メイク、超能力…、複雑な要素をクレバーに織り成すライアン・ジョンソンの手腕 ※注!ネタバレ含みます。

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魅力的な要素の向こう側に見えてくる主人公の生い立ち



 実写とCGを融合させた未来都市、特殊メイク、タイムスリップ、超能力————これらはいずれも本作を構成する大胆な仕掛けでありながら、しかしそれ自体がメインとなって最前線に出すぎることはない。各々はあくまで「ストーリー」を伝えるための要素として身を捧げているというべきか。


 そして、肝心のストーリーに着目していると、ライアン・ジョンソンの語り手としての巧さがとりわけ際立っている箇所に気づかされる。それは主人公ジョーの生い立ちにまつわる部分。決して直接的な回想シーンなどで描かれることはないものの、ふとこみ上げてきた記憶や暗喩などによってそれらは補完され、やがて一本の線として回収されていく。


 例えば、序盤の路上で一瞬だけ出てくる「道端の少年」に注目したい。ドラッグでハイになった主人公ジョーが、車を急停止させて見つめるこの少年。怯えたようにも見えるし、キッと鋭く睨んでいるようにも見える。長い前髪は軽く波打ち、額にまとわりついた状態だ。

 

   『LOOPER/ルーパー』(C)2012 LOOPER DISTRIBUTION,LLC.ALL RIGHTS RESERVED


 その後のシーンで、ジョーの親代わりとも言える組織のボスが「初めてお前を見たとき、汚い髪の毛が顔半分に張り付き、片目で俺を睨んでた」と語っているので、おそらくジョーは先の少年に幼少期の自分を見出していたのだろう。


 感情のかけらもないゴロツキだらけの未来都市で、かつて彼は母親に捨てられ、誰からも愛情を注がれることなく、一人きりでもがいてきた。組織に拾われたことに恩義を感じていても、目は虚ろなままで、心を失った状態であることに変わりはない。


 そんな中だからこそ、やがて出会う「サラとシド」という母子の存在は重要となる。彼らはストーリー上のキーパーソンであるのに加え、ジョーの過去をまざまざと呼び覚ます、さながら記憶のスイッチのような存在と言えよう。


 「私は一度、シドを捨てたことがある」と打ち明けるサラ(エミリー・ブラント)。彼女は過去を悔い、今では全身全霊をかけて息子シド(ピアース・ガニォン)のことを愛し、守ろうと誓っている。そんな光景を目の当たりにして、ジョーがかつて自分を捨てた母親の「ありえたかもしれない姿」を重ね合わせているのは確実だろう。



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