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『大統領の料理人』ミッテランを唸らせた“おふくろの味”。そこにあった苦い隠し味とは

Les Saveurs du Palais (C)2012 -Armada Films- Vendome Production -Wild Bunch -France 2 Cinema

『大統領の料理人』ミッテランを唸らせた“おふくろの味”。そこにあった苦い隠し味とは

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女性は本当にシェフに向かないのか!?



 映画の公開に合わせてインタビューを受けたデルプシュ本人は、「シェフたちがオルタンスにした意地悪(“サーモンのファルシ”に使うガーゼを貸して欲しいと言っても貸してくれないとか、チーズをデザートに出そうとしたら、チーズはデザートではないと文句を付けたり)は、少し脚色はされているけれど、全部本当よ。彼らの頭は凄く固くてどうしようもなかったわ」と笑いながら振り返っている。


 今や、エリゼ宮の主厨房では多くの女性シェフが男性たちに混じって腕を振るっているという。しかし、3つ星シェフとなるとそうはいかない。2019年10月当時、フランスで3つ星を獲得している女性シェフは、レストラン”メゾン・ピック”のソフィー・ピックただ一人。彼女は、父の死によって失ったミシュランの3つ星を2007年に見事奪還したのだ。それは、女性としては歴代4人目で、実に56年ぶりの快挙だったというから驚く。ミシュランが星取りを開始したのは1931年のことだ。



   『大統領の料理人』Les Saveurs du Palais (C)2012 -Armada Films- Vendome Production -Wild Bunch -France 2 Cinema


 シェフの世界に女性が少ない理由は何だろう?職人の世界は男の世界というイメージが、昔から定着している理由とは?すぐには思い当たらない。


 労働者のパワーの源である家庭料理は、主に女性の仕事ではないか?それに、19世紀以来続けられている味覚の研究では、女性の方が男性より優れているという結果が出ている。つまり、シェフの世界でも女性は男性と同等に扱われるべきなのだ。料理界での性差の問題は、もしかして、#Me Too時代の最後に残った課題なのかもしれない。


 いや、そもそも、料理に権威や性別は関係ないのだ。凝った味付けではなく、馴染みのあるシンプルに仕上げたメニューなら、食する人の舌と心は一瞬にして満足するはず。「美味しいよ」と褒めてくれる男たち(大統領も)に、オルタンスが満面の笑顔で応えるのは、彼女が料理の本質を深く理解しているからだ。


 シンプルな料理を目指し、素材にこだわり、あらゆる束縛を跳ね除けたオルタンス。彼女が、エリゼ宮、南極と渡り歩いた果てにたどり着く場所は、いかにもオルタンスらしい。彼女は官邸で同じ境遇にある大統領から言われた、「逆境だからこそ頑張れる」という言葉を胸に、己の料理哲学を全うしようとするのである。その姿は羨ましいほどに清々しい。



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文 : 清藤秀人(きよとう ひでと)

アパレル業界から映画ライターに転身。映画com、ぴあ、J.COMマガジン、Tokyo Walker、Yahoo!ニュース個人"清藤秀人のシネマジム"等に定期的にレビューを執筆。著書にファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社刊)等。現在、BS10 スターチャンネルの映画情報番組「映画をもっと。」で解説を担当。 



『大統領の料理人』

ブルーレイ:¥2,000(税抜)

DVD:¥1,143(税抜)

発売・販売元:ギャガ

Les Saveurs du Palais (C)2012 -Armada Films- Vendome Production -Wild Bunch -France 2 Cinema

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