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『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 中編

(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 中編

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79日間で撮られた3時間の映画



 1991年4月15日にダラスで撮影を開始した『JFK』は、ワシントン、ニューオリンズなどを移動しながら、フィルムを回し続けた。撮影期間は実質79日しかなかった。上映時間3時間を超える映画を、その年のクリスマス・シーズンに公開しようというのだから、メジャーのハリウッド映画としてはタイトなスケジュールにならざるをえない。クオリティを維持しつつ、無駄なく撮影を行えるかどうかは、オリバー・ストーンの現場指揮にかかっていたと言って良い。


 出演者の中で、最もナーバスになっていたのは、リー・ハーヴェイ・オズワルドを演じたゲイリー・オールドマンである。『シド・アンド・ナンシー』(86)のシド・ヴィシャス役で注目を集めたものの、『JFK』出演時はまだ映画出演の経験は数えるほどしかなかった。しかし、オズワルドという〈世紀の悪役〉を演じることは、その後のオールドマンのキャリアを知っていれば、どれほど演じがいを感じたか想像がつくだろう。


 ストーンは、オズワルドの未亡人と2人の娘にもリサーチ段階で数回面会していたが、オールドマンもまた、撮影前に遺族たちと共に過ごす時間を持ち、役作りに励んだ。さらにオズワルド一家が暮らしていた家も訪れた。家具や調度品までが当時のまま残されていることに驚きつつ、オズワルドを自身の中に取り込んでいった。ほとんど台詞はない役だが、ケネディ暗殺犯にされてしまった暗い影を引きずる男の〈人生最期の時間〉を自身に刻みつける作業は、壮絶そのものだったようだ。撮影中でも他の共演者と会話することもなく、セットの片隅でボロボロになり、怯えた顔で出番を待っていたという。


『JFK』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 一方、口さがない映画業界の連中は、必ずやストーンと、ケヴィン・コスナーが揉めるだろうと予想した。監督業にも進出した進境著しいコスナーと、荒っぽい面もあるストーンでは、当然どこかでぶつかるに違いない、というわけだ。何より2人の政治思想の違いは埋めがたいのではないかと見られていたが、互いに「オマエは保守だろ?」とからかいながら、順調に撮影は進んでいった。


 コスナーにとって最も重要な場面は、終盤のクレイ・ショー裁判だった。検事と傍聴人を前に、延々と1人で喋り続ける――それも説得力のある言葉で、感動的に訴えなければならない。映画を観ている観客は、コスナーの演技が少しでも緩んだら、とたんに退屈してしまうだろう。とはいえ、法廷シーンは時間をたっぷりかけて撮影されたわけではない。


 7月末、いよいよ法廷シーンの中でもクライマックスの最終弁論となる場面の撮影を行うことになった。この成否によって映画の印象がガラリと変わってしまう。当初は丸2日かけて撮影を行う予定だったが、朝から撮影を始めて昼までに撮り終えてしまった。最も時間がかかると思われた脚本11ページに及ぶコスナーの演説を半日で撮ることが出来たのは、演技が完成しており、ストーンが彼を巧みに乗せてしまったからである。


 撮影最終日は7月末。前日にコスナーは、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領と共にセレブを集めたゴルフコンペに参加していた。最後の撮影は、ワシントンのキャピトル・ヒル。ドナルド・サザーランドが演じるミスターXが、陰謀の真相をコスナーに語るシーンである。コスナーは、前日に会ったブッシュ大統領の義娘を撮影現場に連れてきていた。歴代大統領を暗殺の陰謀に加担したと名指しする映画に、現職大統領の親族が立ち会うのは奇妙に思えたが、彼女の興味はコスナーとサザーランドの演技にあった。


 日が陰る前に滞りなくOKが出て、79日間にわたる撮影は終了した。これで解放される俳優、スタッフたちを労うストーンには、膨大な編集作業が待ち受けていた。




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