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『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 後編

(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 後編

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『JFK』はプロパガンダ映画か?



 1991年12月20日に『JFK』が全米公開されると、恣意的に歴史を捻じ曲げたプロパガンダ映画であるという報道が大きくなされるようになった。


 「『JFK』はただの娯楽作品ではない。プロパガンダ映画である」(『ニューズウィーク』91年12月23日)


 「危険なのは、ストーンの映画とそこで実に効果的に描かれる偽りの歴史が一般に受け入れられる見解になるだろうということだ」(『シカゴ・トリビューン』91年12月26日)


 こうした批判は、やがてアメリカ映画協会会長兼最高幹部のジャック・ヴァレンティに異例の声明を発表させるに至った。曰く、「シーンごとに、ストーン氏は半ば真実の事柄と全くの偽りを一緒くたにし、そこからもっともらしいものを作り上げている」。さらには「非常によく似た方法で、一九四一年、若きドイツの少年少女は、アドルフ・ヒトラーを新生の神として描いたレニ・リーフェンシュタールの『意志の勝利』に魅了された。『JFK』と『意志の勝利』は同等の捏造だ」と、ナチスのプロパガンダ映画と同レベルの映画だとまで断じたのだ。


 アメリカ映画協会会長職にあるヴァレンティが踏み込んだ発言を行ったのは、『JFK』の中で暗殺の陰謀に加担したと名指しされたリンドン・B・ジョンソン大統領の主席補佐官だった経歴を持っていたことを考えれば、納得できるだろう。彼は「どこかの映画監督によって彼の思い出に泥を塗らせたままにしておくのをただ黙って傍観するのは耐えられなかった」と語る。



『JFK』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 『JFK』がプロパガンダ映画であると主張する人々が危惧したのは、〈当時を知らない若者たちへの影響〉である。実際、前述のヴァレンティも「この映画に惹きつけられた大勢の若者が真実を目撃したと確信して劇場を出たとしてもさほど不思議ではない」と語っている。しかし、『JFK』にそれほどの効果があったのだろうか? そして事件当時を知らない観客はどんな反応を示したのだろうか?


 ここで個人的な話をしよう。筆者が『JFK』を観たのは、日本で公開された1992年3月21日の翌日である。13歳だった。次々に提示される謎と、見え隠れする陰謀に興奮し、ケネディ暗殺は謀略であると確信するようになった。したがって、同年10月21日に急逝した原作者のジム・ギャリソンの死にも不審を抱いた。表向きは病死と発表されたが、このタイミングで死ぬはずがないではないか――という何の根拠もない陰謀脳に取り憑かれていた。


 ギャリソンの死から1週間後の10月29日、深夜番組『EXテレビ』(読売テレビ)で「映画『JFK』に不満だったあなたに送るケネディ暗殺の真相」という特集が放送された。番組の冒頭で司会の上岡龍太郎が、「(『JFK』は)肝心の陰謀はいかに遂行されたかという部分はかなり曖昧で、ウォーレン委員会報告への疑問の提起にとどまっていた」と批判したのを目にして、潮が引くように物語上の弱点が目に付くようになった。


 頭ごなしにケネディ暗殺はオズワルドの単独犯であるという従来の主張を上書きするのではなく、映画自体に問題はあるが事件には謎が残されており、多くの情報が政府によって隠蔽されているという趣旨の番組だったことも、耳を傾けやすかった一因だが、陰謀論で凝り固まっていた筆者は、洗脳から解けるように『JFK』の主張をそのまま受け入れることは出来ないと感じるようになった。


 この一例だけで『JFK』をプロパガンダ映画と言うことは出来ないが、マスコミが躍起になって感情的に批判するだけの、扇動力のある映画だったことは確かだろう。




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