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『ミステリー・トレイン』音/音楽が繋ぎ合わせる3つの「人生=旅」 ※注!ネタバレ含みます。

(C)Mystery Train, INC. 1989

『ミステリー・トレイン』音/音楽が繋ぎ合わせる3つの「人生=旅」 ※注!ネタバレ含みます。

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男たちの夜の彷徨──「ロスト・イン・スペース」



 さて、もうここまでくれば予想がつく。“一発の銃声”が鳴ったのだ。次の章「ロスト・イン・スペース」へと物語は移行する。舞台はとある酒場。一人の男・ジョニーが、恋人であるディディの急な旅立ちと自身の失業を嘆き、酒をあおっている。しかも懐には拳銃(!)。いまにもヤケを起こしそうだ。そんな彼を心配するディディの兄・チャーリーと、友人のウィルが、ジョニーを町へと連れ出すことになる。


 ところが、ジョニーはすでにへべれけで、やぶれかぶれの状態。そんな折に彼らが立ち寄った酒場で、店主が黒人のウィルに向かって差別発言をしたことに対し、ジョニーは思わず発砲……。ここから彼らの逃亡劇が始まる。


 とはいえ、逃げる場所などかぎられている。カーステレオから聞こえてくるのはプレスリーの「ブルー・ムーン」。いま彼らのいる場所は違えど、「ファー・フロム・ヨコハマ」「ア・ゴースト」に登場する者たちと同じく、メンフィスにて同じ夜を過ごしているのだ。大きく違うのは、穏やかな夜なのか、慌ただしい夜なのか、である。しかしながらこの男たちからは、どうにも差し迫った様子が感じられない。もちろん、発言や表情には焦りがみえる。この絶妙な違和感を生み出しているのが、冒頭の方で述べたように、彼らもまた終始“肩の力が抜けている”からだ。このオフビートなアンバランス感こそ、“ジャームッシュ節”だろう。そして何よりこれが、“ズレ”である。


『ミステリー・トレイン』(C)Mystery Train, INC. 1989


 そんな彼らが行き着くのが、例の「ホテル」。ここの一番みすぼらしい一部屋に、身を隠そうというのである。酒は回り、先は見えない男たち。そこで、ことの発端をつくったジョニーは自殺を試みるが、ほかの二人に止められ揉み合いに。その結果、チャーリーが負傷してしまう。件の、“一発の銃声”である。もう予想はついていたが、ここで3つの物語の継ぎ目が見えてくるのだ。


 かといって、彼らは劇中で交わるわけではない。ラストシーンからも分かるように、みながすれ違っている。“ズレ”ている。しかしたしかに、彼らは同じ時を生きている。そこで共有されているのが音なのだ。本作は、“一発の銃声で繋がる物語”ともいえるだろう。ロックンロールの町・メンフィス──。あらゆる音楽の最小単位は「音」だ。その積み重ね方やテンポによって、リズムが生まれ、やがて「音楽」となる。“一発の銃声”という「音」は、それを耳にする誰かに何かしらの影響を及ぼすだろう。誰かの行為が、絶えず見知らぬ誰かにも影響を与えることを私たちは知っている。このことをふまえると、本作は3組の人々に焦点を当ててはいるものの、マクロな視点から「人生」を描いた作品だといえるのではないだろうか。


 タイトルに「トレイン」と冠されているが、たしかに、人生といえば「旅」であり、旅といえば「列車(トレイン)」がつきもの。ふつう「列車」は、終点まで行き着くと、復路をたどるしかない。あるいは山手線のように、同じところをぐるぐると回るもの。そうして行きつ戻りつするのが「人生」というものなのかもしれない。



文: 折田侑駿 

文筆家。1990年生まれ。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、文学、服飾、酒場など。映画の劇場パンフレットなどに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。敬愛する監督は増村保造、ダグラス・サーク。



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発売元:バップ (C)Mystery Train, INC. 1989

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