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『ヤクザと家族 The Family』移ろう時代、揺らがぬ絆。藤井道人、監督人生10年の到達点

(c)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

『ヤクザと家族 The Family』移ろう時代、揺らがぬ絆。藤井道人、監督人生10年の到達点

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スターサンズと藤井監督の“信念”が合致した1本



 『ヤクザと家族 The Family』の最大の特長であり、特異性でもある「作劇のカタルシス」と「シビアなドキュメント感」の両立。ここからは、これらがどのようにして生まれたのかを、藤井監督とスターサンズ、それぞれの歩みも踏まえ、見ていこう。


 本作の企画が動き出したのは、『新聞記者』(19)の撮影終了直後(2019年の1月)だという。スターサンズの代表であり、本作の企画・製作・エグゼクティブプロデューサーを務める河村光庸氏に呼び出された藤井監督は、その場で「次、どうする?」と言われたのだとか。そのブレインストーミングの中で、「ヤクザ」というキーワードが浮上したそうだ。


『新聞記者』予告


 スターサンズといえば、『新聞記者』のほかにも、『かぞくのくに』(12)や『あゝ、荒野』(17)、『MOTHER マザー』(20)など、社会問題を絡めた独自性の高い作品を次々と世に放ってきた映画会社だ。また、『愛しのアイリーン』(18)や『宮本から君へ』(19)など、過激な描写もいとわず、観る者を打ちのめす力作も多い。同社が「ヤクザ」という題材にたどり着く(かつ、社会的な目線で描く)のはある種必然と言えるが、藤井監督としてはどうか。


 彼のフィルモグラフィをさかのぼってみると、『デイアンドナイト』(19)はリコール問題、『光と血』(17)は事件被害者や被災が描かれ、青春映画である『青の帰り道』(18)でも、自殺や裏稼業をシビアに見つめており、常に社会とつながった物語が展開する。加えて、『デイアンドナイト』や『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)では、本作に通じる「疑似家族」的なテーマも描かれている。


 しかし、“原点”といえるのは、2012年の『けむりの街の、より善き未来は』だ。この作品は、ヤクザを題材にしたドキュメンタリー映画を撮ることになった学生たちの物語。そのため、藤井監督によれば『ヤクザと家族 The Family』は『けむりの街の、より善き未来は』のセルフリブート的な意味合いも持っているのだとか。後述するが、『ヤクザと家族 The Family』は、ビジュアル面でのテーマに「煙」があり、それもこの作品とリンクしている。


『けむりの街の、より善き未来は』予告


 なお『けむりの街の、より善き未来は』は、藤井監督が「自費で80万ほど集め、足りない部分は貯金を切り崩して7日間かけて撮った」という作品。「すべてを自分たちで行い、責任を持つ」というインディーズ精神も、藤井監督のカラーであり、スターサンズのフィロソフィーとも合致する。


 また、もうひとつ興味深いのは、両者のキャスティングだ。スターサンズは、菅田将暉、安田顕、池松壮亮、仲野太賀ら、メジャー作品とアート作品を行き来する俳優たちを積極的に起用し、彼らの表現の幅を押し広げてきた。横浜流星や清原果耶といった若手注目株にオリジナル映画で機会を与えてきた藤井監督とも、同じベクトルのように思える。本作でも舘ひろし、綾野剛、磯村勇斗といった3世代の役者がキャスティングされており、彼らがバトンを受け継いでいくさまが、作品の内容ともシンクロする構成となっている。


 いわば、『ヤクザと家族 The Family』は、藤井監督とスターサンズ、両者の志向性が合致した作品。作品の中身においては、ジャン=ピエール・リモザン監督がヤクザを取材対象にしたドキュメンタリー『Young Yakuza(原題)』(07)や、東映やくざ映画を現代の感覚で描いた『孤狼の血』(18)等々を踏まえ、骨格が出来上がっていったそうだ。



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