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『バタリアン』ダン・オバノン初監督作の勢いと、前時代的宣伝をあわせて堪能する

(c)Photofest / Getty Images

『バタリアン』ダン・オバノン初監督作の勢いと、前時代的宣伝をあわせて堪能する

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「客をダマしてでもコヤをいっぱいにしろ!」



 さて。ここまでに当たり前のように『バタリアン』と連呼しているが本編には1度も「バタリアン」という言葉は出てこない。「バタリアン」が映画『バタリアン』を指すのは日本だけである。この邦題は本作の配給を請け負った「東宝東和」独自のものだ。


 東宝東和が配給したホラー作品は『サンゲリア』(79)『サランドラ』(77)『ガバリン』(86)などなど、どれも5文字程度で口触りが良く、「ン」と濁点のある単語(ないし単語に見える造語)がタイトルとして付けられているのが特徴だ。


 また、東宝東和が仕掛けるキャンペーンも独特である。世界中の奇祭や風習を追ったドキュメンタリー映画『残酷を超えた驚愕ドキュメント・カランバ』(83)の宣伝では、劇中に登場するジープで腕を引きちぎる様子(もちろんヤラセ)を、当時人気だったプロレスラー、グレート・カブキで再現してみせた。


 『サランドラ』の試写会では上映の真っ最中に、劇中には登場しないがポスターのド真ん中に鎮座する巨大なナイフ「ジョギリ」を持った怪人が乱入するなど。いかがわしい前時代的な「興行」の匂いをプンプンさせるものだった。


 これらは当時の東宝東和に連綿と受け継がれた社風「客をダマしてでもコヤをいっぱいにしろ!」という、まさしく前時代的精神そのものである。


 『バタリアン』の広告でも、そんな「東宝東和精神」とも呼べる、いかがわしく魅力的な手法が取られた。まず、ポスターや新聞広告には以下のような惹句が並べられた。


 「もう限界ですーー これが世界初のバイオショック!」「最新生物学+SFX。脅威のバイオSFXに全米が大騒ぎ!」これは当時、クローン技術によってヒツジのクローンが作られたニュースや、DNA配列解明のニュースに由来して流行った「バイオテクノロジー」のキーワードを無理やり取り入れたものだ。念を押すように上映は「バイオSFX方式上映」という、謎の上映方式が謳われている。


『バタリアン』予告


 別の惹句「これがスラップ・ホラーだ!」は、ゾンビ・ホラーながらコメディタッチの演出がされた本作を表すため「スラップスティック・コメディ」の「スラップ」から取ったものだが、同時期に流行った「スプラッター・ホラー」も連想させようという、ミスリードを誘う(ある意味)優れた造語だ。


 コマーシャルや予告編は「わたしオバンバ、脳みそ食べたーい!」というおどけた調子で始まる。これは劇中に登場するゾンビに「オバンバ(見た目まんま)」や「ハーゲンタフ(首を切り離されても動きまわる坊主頭で「タフなハゲ」から)」「タールマン(これのみデザイン・スケッチの段階でそう名付けられている)」といった名前を付けてキャラクター化し、語りかけるような愉快な広告展開をしていくためだ。


 そして、前売り券には「バタリアンの卵」と称した、シリコン製のチューブ(ガラスなどに叩きつけるとネトネトと生きているような動きで落ちるおもちゃ)が特典としてプレゼントされた。


 これら、当時の如何わしい興行の爪痕は日本盤DVDの字幕などに、かすかに残っている。本作を鑑賞する際には、オバノンの初監督にかけた全身全霊の意気込みやテクニックと共に、前時代的な日本の“香具師”たちの放つ芳しい香りも楽しんで欲しい。



文: 侍功夫

本業デザイナー、兼業映画ライター。日本でのインド映画高揚に尽力中。



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