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『3時10分、決断のとき』西部劇の形式が導く、神話性を宿した肉厚な人間ドラマ

(c)Photofest / Getty Images

『3時10分、決断のとき』西部劇の形式が導く、神話性を宿した肉厚な人間ドラマ

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オリジナル版とは段違いにグレードアップした人間ドラマ



 こうした使命感とも崖っぷちとも呼ぶべき心境が功を奏したのか、本作はもはや西部劇という範疇を超え、幅広い観客の胸を揺さぶる完成度の高いヒューマンドラマとなりえた。


 その感動はどこからくるのか。最たる部分を挙げるとすれば、それはやはり人間描写だろう。ジェームズ・マンゴールド監督の人間の描き方はいつも骨太で力強く、わずかな描写の積み重ねによって非常に肉厚な人間模様を覗かせる。本作でも、型にはまった勧善懲悪や善悪二元論をいっさい持ち出すことなく、人間対人間の血の通ったやりとりと、その先に何がどう展開していくのかわからない予測不能の関係性が観る者を強く魅了してやまない。


 例えばクリスチャン・ベイル演じる牧場主のダンは、オリジナルからさらに肉付けされ、本作では新たに「戦争で負傷した過去」を付与される。その経緯が彼にどのような心境をもたらしているのか。自分を見つめる子供たちの目線に何を感じているのか。また、彼はなぜ危険な任務を引き受け、指名手配犯ベン・ウェイドを「3時10分発」の列車の囚人車両に乗せるべく旅を続けるのか。あえて言葉にせずとも、ベイルの表情が、仕草が、旅の軌跡が、内なる感情を如実に突きつけてくる。


『3時10分、決断のとき』(c)Photofest / Getty Images


 一方のラッセル・クロウ演じるベンという男も非常に奥深い人間だ。彼は単なる”絵に描いたような悪者”ではない。手下を率いて馬車を襲いながらも、どこかその蛮行に嫌気が差しているところがある。鉄道網の発達によって激変を遂げているウエスタンの世界。次第に資本主義はこの地にも勢力を拡大させ、アウトローな荒野など消滅しようとしている。このような中でベンのような絶滅危惧種はどうやって己の生き様を貫けばよいのか。


 彼らは”主人公”と”それに対抗する者”という立ち位置でありながら、決して仇同士、敵同士とは言い切れない何かがある。油断すれば命を奪われかねない危うさを秘めつつ、しかし「どう生きるか」「どうあるべきか」をめぐって、互いの生き様に共鳴しているかのよう。一言では表現できないこの複雑な関係性について、監督本人はDVD音声コメンタリーの中で「ある意味、精神的な相棒のような存在」とも表現していて実に興味深い。




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