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『リバーズ・エッジ』からさかのぼって考える、天才漫画家・岡崎京子と映画をめぐる深い関係

© 2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

『リバーズ・エッジ』からさかのぼって考える、天才漫画家・岡崎京子と映画をめぐる深い関係

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『リバーズ・エッジ』に影響を与えた同名のアメリカ映画とは?



 そして映画との結びつき、で言えば、他ならぬ『リバーズ・エッジ』のベースになったとおぼしき作品を忘れるわけにはいかない。それはズバリ同名の、ティム・ハンター監督による1986年のアメリカ映画『RIVER’S EDGE』だ(ただし邦題は『リバース・エッジ』と「ス」表記になっている)。新人時代のキアヌ・リーヴスが若者のひとりで出演しており、デニス・ホッパーがワケありの男を怪演した犯罪サスペンスのカルト作である。


 河が流れる片田舎の町で見つかる少女の死体。この殺人事件に関与した孤独な高校生たちの物語に、岡崎は「平坦な戦場」のイメージの原型を見たのかもしれない。80年代の映画だが、ここに漂う虚無と殺伐はのちにグランジと呼ばれる感覚や世界観を前倒しで体現したものであり、そこから日本的リアリティにまでの延長と変換を正確に行い、極めて長い批評的(あるいは予見的)な射程を装填したのが岡崎の『リバーズ・エッジ』だとも言える。


 興味深いのは、それまで東京=都市の人間模様を描き続けてきた岡崎が、『リバーズ・エッジ』では同名映画の影響もあり、匿名的な郊外を舞台にしていること。モデルとなったのは江東区の晴海のようだが、例えば川崎の工業地帯だとしてもおかしくない風景が描出されている。映画というフィールドの中で、こういった郊外の学園生活を「平坦な戦場」として描き切った史上初かつ最高峰の傑作と言えるのが、岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』(2001年)だろう。この映画は(作り手の意図は別にして)『リバーズ・エッジ』からバトンを受け取った、もうひとつのマスターピースとして比較する声が多かった。



『リバーズ・エッジ』© 2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社


 この文化史的な流れに、なにか運命的なサイクルを感じてしまうのは筆者だけではあるまい。というのも、今回の映画版『リバーズ・エッジ』の監督を務めた行定勲は、かつて岩井俊二の助監督だった。しかもその時期は『リリィ・シュシュのすべて』の前作に当たる『四月物語』(1998年)まで。ここが岩井と行定の道の交差点だ。しばらくして行定は監督デビューし、ゼロ年代以降の華々しいキャリアを築き上げていくことになる。


 そう考えると、やはりじっくりと長い時間をかけて、然るべきところにバトンが手渡された、ということなのだろう。『リバーズ・エッジ』はこの2018年、満を持しての映画化がついに果たされたのである。



文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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リバーズ・エッジ

2018年2月16日(金)より、TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー

配給:キノフィルムズ


※2018年2月記事掲載時の情報です。

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