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『15時17分、パリ行き』映画を次のステージへと進化させようとするイーストウッドの野心作※注!ネタバレ含みます。

(C)2018 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited, RatPac-Dune Entertainment LLC

『15時17分、パリ行き』映画を次のステージへと進化させようとするイーストウッドの野心作※注!ネタバレ含みます。

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ジャンル映画を撮り続け、定型を打ち破り続けた監督



 イーストウッドはほぼ全てのジャンルの映画を監督してきているが、そのジャンル自体を揺さぶるような作品も多く発表している。


 1992年のアカデミー作品賞に輝いた『許されざる者』では、西部劇に潜む陰惨な暴力性を真正面から描き、懐古的な西部劇の世界観を完全に葬り最後の西部劇と謳われた。2006年の『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』では、同じ戦闘を2部作に分け、日米両方の兵士の視点から別々に描くという、映画史的にも珍しい試みに挑戦。


 さらに『インビクタス 負けざる者たち』も奇妙な映画だ。アパルトヘイトを撤廃した南アフリカで初の黒人大統領となったネルソン・マンデラのもと、ラグビーの代表チームがワールドカップで優勝するまでを描いた。


『インビクタス 負けざる者たち』予告


 優勝は難しいと思われた南アフリカチームが、並み居る各国の代表チームを破り、遂に栄冠を手にする。スポーツ映画の常道なら、チームが徐々にまとまり、選手たちが技量を高め、苦難を乗り越え、優勝までに至る道のりを感動的に描くだろう。しかし『インビクタス』はそんなお決まりの筋書きをたどらない。代わりにあるのはマンデラを演じたモーガン・フリーマンが代表チームのキャプテン(マット・デイモン)にかける言葉だ。


 「君たちは国民の和解の象徴だ。だから優勝しなくてはならない」。そしてマンデラは繰り返し詩の一説を呟く「我が運命を決めるのは我なり、我が魂を制するのは我なり」。まるで呪文のように淡々と紡がれる言葉。しかし、この呪文に導かれるようにチームは優勝カップをもぎとる。『インビクタス』はスポーツ映画の装いを纏ってはいるが、言葉が持つ呪力についての映画と捉えることもできる。


 かようにイーストウッドは様々なジャンル映画の定型をゆさぶり、宙づりにしてきた実験精神の持ち主だ。そして彼が最新作で挑んだ実験は、本物の事件を当事者たちがそのまま演じるというものだった。それはイーストウッドのここ10年の作品群を見れば当然の帰結とも言える。


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