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『ダークナイト』全てはここから始まった!アメコミ映画の定石をことごとく覆した、クリストファー・ノーラン

©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.

『ダークナイト』全てはここから始まった!アメコミ映画の定石をことごとく覆した、クリストファー・ノーラン

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『ダークナイト』あらすじ

ゴッサム・シティーに、究極の悪が舞い降りた。ジョーカー(ヒース・レジャー)と名乗り、犯罪こそが最高のジョークだと不敵に笑うその男は、今日も銀行強盗の一味に紛れ込み、彼らを皆殺しにして、大金を奪った。この街を守るのは、バットマン(クリスチャン・ベール)。彼はジム・ゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)と協力して、マフィアのマネー・ロンダリング銀行の摘発に成功する。


それでも、日に日に悪にまみれていく街に、一人の救世主が現れる。新任の地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)だ。正義感に溢れるデントはバットマンを支持し、徹底的な犯罪撲滅を誓う。資金を絶たれて悩むマフィアのボスたちの会合の席に、ジョーカーが現れる。「オレが、バットマンを殺す」。条件は、マフィアの全資産の半分。しかし、ジョーカーの真の目的は、金ではなかった。ムカつく正義とやらを叩き潰し、高潔な人間を堕落させ、世界が破滅していく様を特等席で楽しみたいのだ。


遂に始まった、ジョーカーが仕掛ける生き残りゲーム。開幕の合図は、警視総監の暗殺だ。正体を明かさなければ市民を殺すとバットマンを脅迫し、デントと検事補レイチェル(マギー・ギレンホール)を次のターゲットに選ぶジョーカー。しかし、それは彼が用意した悪のフルコースの、ほんの始まりに過ぎなかった……


Index


“バットマン”という言葉を削り落とした“バットマン映画”



 『ダークナイト』(2008)という映画は、さまざまな意味でエポックメイキングだった。アメコミヒーロー映画の興行収入が10億ドルを超えたことも初めてなら、アメコミの悪役がアカデミー賞にノミネートされたのも初めて。しかもジョーカーを演じたヒース・レジャーはみごと受賞を果たしたのだ。


 またクリストファー・ノーラン監督は『ダークナイト』の成功によって、ハリウッド大作なのにほぼ100%の作家主義を貫くというほとんどフリーハンドの自由を得た。『ダークナイト』がなければ後のマーヴェルの躍進もなく、現在のハリウッドの勢力図も大きく変わっていたに違いない。


 では『ダークナイト』は何がそれまでの映画と、とりわけアメコミヒーロー映画と違っていたのか? 一番わかりやすいのはノーランの前々作『バットマン ビギンズ』(2005)との比較だろう。



『ダークナイト』©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.


 まず『ダークナイト』は“バットマン”映画でありながら、タイトルに“バットマン”が付いていない。『バットマン ビギンズ』はバットマンの誕生篇という内容をダイレクトに表していて、直訳すると「バットマンのはじまり」である。90年代にティム・バートンが撮った時もその後ジョエル・シュマッカーが引き継いだ時もタイトルには“バットマン”が付いていた。誰が疑問に思うこともない当たり前のことである。


 ところがノーランは、自らリブートした新たなシリーズからヒーローの名前を削り落としたのだ。もちろん“ダークナイト”は1940年からDCコミックにおいてバットマンにつけられたニックネームであり、原作にリアリズムを持ち込んだフランク・ミラーが1986年に発表したグラフィックノベルのタイトルも『バットマン:ダーク・ナイト・リターンズ』。バットマンの異名としては最も有名なものなのだ。しかし「ウルトラマン」シリーズのタイトルから「ウルトラマン」という言葉を削除することがないように、ワーナーブラザーズにとって勇気のいる決断だっただろう。



『ダークナイト』©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.


 いずれにせよ、『ダークナイト』というタイトルはバットマンの物語でありながら過去の「バットマン」映画への訣別の証のようなものだと言える。実際、『バットマン ビギンズ』のゴッサムシティは、まだアメコミらしさを反映していて、近未来と過去が同居する煌びやかなダークファンタジーの街だ。そのゴッサムシティも『ダークナイト』において、まったく違うアプローチで変貌を遂げることになる。



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