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『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』皮肉にも傑作揃いのナチス・ドイツの闇を探究する異色サスペンス

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『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』皮肉にも傑作揃いのナチス・ドイツの闇を探究する異色サスペンス

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『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』あらすじ

1941年、ナチス占領下のチェコスロバキア。2人の若者ヨゼフ・ガブチークとヤン・クビシュがパラシュートで降り立つ。ロンドンに本拠を置くチェコスロバキア亡命政府の密命を帯びた彼らの目的は、ナチスNo.3と言われるラインハルト・ハイドリヒの暗殺。2人を匿うチェコ国内のレジスタンスたちの中には、報復を恐れて暗殺に反対する者も少なくない。それでも2人の女性レジスタンスのサポートを受けながら、作戦決行に向けて偵察と情報収集に奔走するヨゼフとヤンだったが…。


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独裁者アドルフ・ヒトラーの暗殺計画を描いた『ワルキューレ』



 1942年、政府の指令でイギリスからパラシュートで送り込まれた兵士たちが、プラハのレジスタンス(抵抗組織)の協力を得て、決死の姿勢で危険な任務――ナチス・ドイツの親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒ暗殺の遂行を目指す。その作戦決行の推移から報復への顛末を描いた新作が『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』(2016年)だ。


 撮影と脚本も兼ねた監督のショーン・エリスは、スーパー16mmの手持ちカメラを駆使し、ザラついたリアリズムでナチス占領下のプラハの街並みに観客を連れていく。セピアがかった色合いの画面は古い記録写真がそのまま動き出したようで、演出は抑制されたタッチが見事だ。例えば近距離からハイドリヒを狙撃しようとする際に、そこで見せる絶妙に停滞の利いたアクション描写の妙。ソリッドな引き算の美学で、ままならぬ現実に直面した闘士たちの葛藤の様子を捉えることにより、歴史のひとコマが生々しい実体性を持って展開されていく。

 この実録物の傑作が扱った史実は、過去『死刑執行人もまた死す』(1943年/監督:フリッツ・ラング)や『暁の7人』(1975年/監督:ルイス・ギルバート)などでも映画化された「エンスラポイド作戦」と呼ばれるもの。それに絡めて、本稿では総統アドルフ・ヒトラーの暗殺計画を描いた映画のことを書いてみたい。しかも敵国のレジスタンスによるものではなく、ドイツ国内の反乱分子によるクーデターである。


 それはトム・クルーズ主演の『ワルキューレ』(2008年)だ。監督は『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)や『X-MEN』シリーズの諸作(2000年~2016年)などの人気作で知られる名手ブライアン・シンガー。英語台詞のアメリカ映画ではあるが、撮影はドイツ。時代考証にはマニアックと言うほどの精度を見せ、残っている建築物や車両はなるだけ本物を使用したほか、80億円以上という巨費を投じてナチス時代のベルリンを徹底再現。美術も衣裳も、例えばナチス党のシンボル・カラーである赤の色合いを繊細に調整するなどのこだわりで作り込み、独特の頽廃的なムードを醸し出している。


 舞台となるのは第二次世界大戦の末期。連合軍の勢いが増してドイツの敗色が濃くなり、ナチスは瀬戸際に追い詰められる中で、ホロコーストと呼ばれるユダヤ人の大量虐殺など理不尽な蛮行をエスカレートさせていった。そんな指導者ヒトラーの暴走に、ドイツ軍将校の中でも嫌悪と反感が高まっていた頃だ。


 そこでひとりのドイツ軍人が大胆な「内部反乱」――ヒトラー暗殺計画を立案する。名門貴族出身のクラウス・フォン・シュタウフェンベルク陸軍大佐(トム・クルーズ)だ。彼は北アフリカ戦線のチュニジアで重傷を負い、右手と、左手の二本の指を切断し、失った左目を隠すためにアイパッチを着用。もちろん実在したドイツ人将校だが、いかにもハリウッド・スター然としたトム・クルーズがナチスの軍服に身を包んで演じていることもあって、ほとんどアニメの登場人物ばりにキャラクターが立っている。



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