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『さよなら、僕のマンハッタン』二人の“ウェブ”から見えてくる、マーク・ウェブ監督の試行錯誤と再起への誓い

© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

『さよなら、僕のマンハッタン』二人の“ウェブ”から見えてくる、マーク・ウェブ監督の試行錯誤と再起への誓い

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二人の“ウェブ”から見えてくる、映画監督としての葛藤



 二人のウェブはあたかも、マーク・ウェブ監督の胸中において「過去の自分」と「未来の自分」がせめぎあっているかのよう。一人は、映画監督としての原点(それこそ本作の脚本に出会った10年前のような心情)にて、まだ汚れを知らず純粋な夢を持ちながらも、一歩踏み出す勇気が得られずにいるウェブ。そしてもう一人は、大きな挫折を経験して、大人になることで逆に何かを失ってしまったウェブである。


 どちらが正しいとか、正しくないとかではない。きっと彼らの双方に「今の場所からしか見えない風景」というものが存在するのだろう。そこで二つの分身がどう話し合い、折り合いをつけて前に進んで行くか、それが一番のポイントとなる。本作は決してマーク・ウェブが手がけた脚本ではないが、しかしそこには結果的に、今の彼の赤裸々な心境と、前に進もうとするダイナミズムが涙ぐましいほど発露していることに気づかされるのだ。



『さよなら、僕のマンハッタン』© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC


 マーク・ウェブ本人に尋ねると「いや、君の指摘は間違っている」と笑って諌められるかもしれないが、本作を通じてこのニューヨークの地で自問自答する彼の姿がかなり鮮明に垣間見えたのは紛れもない事実。そして主人公がついにアイデンティティを掴み取るクライマックスには、監督の再起への力強い決意すらオーバーラップし、胸に迫るものがこみ上げてくるのを禁じえなかった。


 単に映像や演出のうまさに終始せず、こういった「自分は何者か?」というテーマを追求し続ける実直さ、真面目さ、素直さもまたマーク・ウェブ作品、そして本作の大きな魅力といえる。一歩ずつ、ゆっくりではあるが、彼はこの問いを通じて着実に前へ進み始めている。


 おそらく今がキャリアの中で一番きついところ。ここを乗り越えると、そこから見える風景もガラリと変わってくるに違いない。人生の経験を積んだ彼はこの先どんな新たな境地に手を伸ばすのか。ここから始まるマーク・ウェブの第2章にも我々は大きな期待を寄せたいものだ。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『さよなら、僕のマンハッタン』

4月14日(土)より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国順次公開

© 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

提供:バップ、ロングライド 配給:ロングライド

公式サイト: http://www.longride.jp/olb-movie/


※2018年4月記事掲載時の情報です。

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