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『ディア・ハンター』から『心と体と』まで。映画で描かれる〈鹿〉の象徴性をたどって

2017 (C) INFORG - M&M FILM

『ディア・ハンター』から『心と体と』まで。映画で描かれる〈鹿〉の象徴性をたどって

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邦画と幻の鹿たち



 邦画に登場する幻の鹿の代表格は、宮崎駿監督のアニメ映画『 もののけ姫』(1997年)のシシ神だ。物語は中世日本、山林にほど近いタタラ場(昔の製鉄所)がある村で展開する。頭から多くの角を生やし人の顔と鹿の体を持つシシ神は、山の生き物の生死をつかさどる存在であり、端的に〈自然〉を象徴する。


 シシ神は夜、デイダラボッチと呼ばれる巨大な姿に変身する。〈自然〉が人智を超えた大いなる存在であることを思わせる。


 邦画ではもう1本、菊地健雄の初長編監督作『 ディアーディアー』(2015年)を挙げたい。北関東の山あいの小さな町には、かつて「リョウモウシカ」が棲息していたという言い伝えがある。この鹿を幼い3兄妹が目撃し、一躍時の人となるが、その後目撃談は嘘だったと非難され、3人に深いトラウマを残す。大人になり家業の鉄工所を継いだ長男のもとに、父の危篤を知らされた離婚係争中の長女と精神を患う次男が帰省してくる。


『 ディアーディアー』予告


 菊地監督と脚本の杉原憲明は、3兄妹のトラウマの原因になる存在として、日本の日常風景の中に現れても許容される鹿を選んだ。そうして創作されたリョウモウシカはまた、田舎町の濃い人間関係、移動や買い物の不便さ、安易に町興しを画策する浅ましさといった“地方的なるもの”の呪縛を象徴してもいる。


 映画の終盤、父の通夜での修羅場を経て、3兄妹にささやかな“奇跡”が訪れる。呪縛から解放された3人がそれぞれ、町を出て行くところで物語は終わる。


 『ディア・ハンター』『もののけ姫』『ディアーディアー』の類似点として、鹿が生息する(あるいは、いそうな)山あいの町や集落が舞台になっているのはまあ当然だとしても、登場人物たちの働く場として製鉄所や鉄工所が描かれている点は興味深い。製鉄所に関しては、都や都市に住めない社会的アウトサイダーが、鉱山に近く燃料と水を調達しやすい山間部で文明化を担ってきたという、歴史的背景を反映しているのだろう。



文: 高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。



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作品情報を見る


『心と体と』

2017 (C) INFORG - M&M FILM

配給 : サンリス

4月14日(土)より新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

公式サイト: http://www.senlis.co.jp/kokoroto-karadato/


※2018年4月記事掲載時の情報です。

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