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『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』iPhoneから35mmフィルムカメラへ、変幻自在の撮影方法がもたらす映像力

(C)2017 Florida Project 2016, LLC.

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』iPhoneから35mmフィルムカメラへ、変幻自在の撮影方法がもたらす映像力

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炸裂するiPhone撮影(※注!ネタバレに抵触します)



 iPhoneが「目撃」や「寄り添い」といった身軽な感触を生み出すのに対し、35mmはその映像の深みゆえ、観客の誰しもが腰を下ろし「その世界にどっぷりと浸かりこむ」という効果をもたらしてくれる。そのため、本編中にふと気がつくと、すっかりウィレム・デフォー演じる管理人と同化して、主人公らの暮らしを見守っていた・・・そんな人もかなり多かったのではないか。単に予算が多く得られたから35mmにしたという理由でなく、ここにはやはり「描くべき世界」と「それを具現化するための最善の手法」という関係性の構図があったのだ。


 一方、本作『フロリダ・プロジェクト』でも一箇所だけ、35mmフィルムカメラをiPhoneに持ち替えて撮影された場面が登場する。その映像の「質感の変化」にはきっと誰もがハッとさせられるはず。なぜ機器を持ち替えたのか。質感を変える必要があったのか。ネタバレになるので詳細を明かすことはできないが、そこにはそうせざるをえなかった状況とともに、フィクションとしての構造上の意味合いや、作り手の思いなども深く込められているようだ。ぜひ鑑賞中は頭の片隅にこのことを置きながらじっくりと味わってみてほしい。


 ちなみにカンヌ国際映画祭での上映を始め、このシーンに関しては様々なリアクションがあったという。おそらく多くの人たちが、劇場を出た後に「あれはどういう意味だったんだろう?」と考えたり、友人同士で話し合わずにはいられないはず。ベイカー監督によると、こういった部分をあえて残すことで、観客に本作のエンタテインメント性を楽しむだけでなく、その一歩先にある現実に興味関心を持ち、身の回りの問題について考え続けてほしいという願いもあるようだ。



『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(C)2017 Florida Project 2016, LLC.


 観客の目や耳、心を思い切り楽しませつつも、そこから自ずともう一つの目を見開かせていくその手腕。ショーン・ベイカー監督、やはりただ者ではない。その知名度、存在感、影響力ともに今後ますます重要となっていくはず。果たして次作で彼は世界のどんな場所で、それからどんな撮影方法を駆使して「現実」を描くのだろうか。これからの活躍にも大いに期待したいものだ。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 



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作品情報を見る


『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

5月12日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー

配給:クロックワークス

公式サイト: http://floridaproject.net/

(C)2017 Florida Project 2016, LLC.


※2018年5月記事掲載時の情報です。

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