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グレタ・ガーウィグの出世作『フランシス・ハ』。オスカー候補作『レディ・バード』との連続性とは?

©Pine District, LLC.

グレタ・ガーウィグの出世作『フランシス・ハ』。オスカー候補作『レディ・バード』との連続性とは?

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『フランシス・ハ』あらすじ

ニューヨーク・ブルックリンで親友ソフィーとルームシェアをして、楽しい毎日を送る27歳の見習いモダンダンサー、フランシス。ところが、 ダンサーとしてもなかなか芽が出ず、彼氏と別れて間もなく、ソフィーとの同居も解消となり、自分の居場所を探してニューヨーク中を転々とするはめに!さらには、故郷サクラメントへ帰省、パリへ弾丸旅行、母校の寮でバイトと、あっちこっちへ行ったり来たり。周りの友 人たちが落ち着いてきていることに焦りを覚え、自分の人生を見つめ直し、もがいて壁にぶつかりながらも前向きに歩き出そうとするフランシス。不器用で大雑把だけどチャーミングな彼女の姿に、誰もが共感を覚え、心が軽やかになり、不思議なタイトル"フランシス・ハ" の意味が明らかとなるラストに胸を打たれる。


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モノクロームのニューヨークで奮闘する、27歳こじらせ女子の肖像



 人気女優にして監督・脚本家のグレタ・ガーウィグは、映画界の新基準を打ち立てつつある、いまの時代有数のキーパーソンだろう。今年のアカデミー賞では監督賞にノミネートされた唯一の女性となったが(他の候補は、受賞者である『 シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロほか、『 ダンケルク』のクリストファー・ノーラン、『 ゲット・アウト』のジョーダン・ピール、『ファントム・スレッド』のポール・トーマス・アンダーソン)、対象作『レディ・バード』は決して派手な衝撃作のたぐいではない。むしろ慎ましく地味な作風。しかしこれまでいかに多くの映画が男性優位の色に染まっていたかを知らしめたという意味では、極めて画期的だ。その鋭く優しいニュートラルな眼と、極私的な実感に基づいた丁寧な演出で、ありきたりな青春の風景を鮮やかに塗り直してくれる。


 そのガーウィグを一躍スターダムにのし上げた重要作として挙げられるのが、主演と共同脚本を務めた2012年の映画『フランシス・ハ』だ。監督は私生活のパートナーでもあるノア・バームバック(代表作に2005年の『 イカとクジラ』など)。本作は批評家やカルチャー・セレブたちに絶賛され、口コミの力も広がり全米で想定外の大ヒットに。このブレイクによって、ガーウィグは2014年に第64回ベルリン国際映画祭でコンペティション部門の審査員を務める運びになった。


『フランシス・ハ』予告


 本作でガーウィグが演じるヒロインのフランシスは、ニューヨークのブルックリンに住む27歳の見習いモダンダンサー。大学時代からの親友ソフィー(ミッキー・サムナー。あのミュージシャン、スティングの実の長女である)と、ヴァンダービルト通りのアパートでルームシェアしながら、ユルくて楽しい日々を過ごしている。ところがある日、突然ソフィーが別の友人とトライベッカで暮らすと言い出し、彼氏のパッチとも結婚話を進め出す。一方のフランシスは彼氏とも別れ、研究生として所属しているバレエカンパニーでも公演のメンバーからハズされる始末。こうして彼女の泣きっ面に蜂状態からの悪戦苦闘が展開する……というお話。



『フランシス・ハ』©Pine District, LLC.


 不器用で、ガサツで、いまいちモテなくて、「もう若くない」と他人に言われながらもモラトリアムな自分探しの生活から抜け出せない。そしてオトコとの恋愛よりも、シスターフッド(女性同士の連帯)を大切にする。そんないまどきの普通の女性像をガーウィグがいきいきと体現する。筆者などは2014年の日本公開当時、これってちょうど流行していた『 アナと雪の女王』(2013年)の姉妹の絆や「ありのままで」イズムに似ているな、とか思ったほど。


 ここで提示されている世界観は、ある種の新しさではあるのだが、同時に『フランシス・ハ』の全体像を包むのはオールドファッションなモノクロームの映像だ。それはガーウィグが敬愛するウディ・アレン監督の『 マンハッタン』(1979年)だったり、かつてヌーヴェル・ヴァーグの映画群が捉えたパリの街並みを思わせる。そしてサウンドトラックには、フランンソワ・トリュフォー監督の映画を彩ったジョルジュ・ドルリューの音楽が使用される。また、ガーウィグがチャイナタウンの通りを全力疾走する姿に、デヴィッド・ボウイの名曲「 モダン・ラヴ」(1983年のアルバム『レッツ・ダンス』収録)が流れるところは、レオス・カラックス監督の『 汚れた血』(1986年)でのドニ・ラヴァンが走る有名なシーンの転用だと見ていい。



『フランシス・ハ』©Pine District, LLC.


 現代性と伝統、自分の感性と既成の枠組みを融合させ、スタンダードの形を更新していく。それがガーウィグの映画作りの流儀なのだろう。


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