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『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』"格好悪い"が"カッコイイ"に反転する魔法。個性的な青春映画の傑作

© 押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』"格好悪い"が"カッコイイ"に反転する魔法。個性的な青春映画の傑作

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世界を変える力



 萩原利久が演じる菊地強は、クラスの担任(山田キヌヲ)や志乃の母(奥貫薫)とともに、悪気のないからかいや善意のお節介によって他者を傷づける存在の象徴だ。志乃のつっかえる話し方に対し、菊地は受けた違和感を笑いに転化することが“コミュニケーション”だと思っていたし、担任と母親は治すべき欠点だと考える。



『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』© 押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会


 多様性の意義が説かれ、LGBTをはじめとするマイノリティーの平等に関する啓発がなされて久しいが、現実にはいじめも差別もなくなっていない。外見やコミュニケーション方法が異なる相手と出会ったとき、違和感を覚え内心警戒するのはいわば動物の本能に根ざす自然な反応だが、互いの差異を認めることを学ぶのが人間としての成長であり、社会性の獲得ということだろう。


 本作は、ある種の悲壮な開き直りによって、自身の超克を試みる。そのとき、マジョリティーが“格好悪い”と笑う姿が、まるで魔法のように“カッコイイ”に反転する。凡庸な青春映画にはない、個性的な輝きを放つ珠玉作。あらゆる世代の観客の胸を打つはずだし、多くの人が観れば観るほど世の中が変わっていくと確信させてくれる宝物だ。



文:高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。



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『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』

7月14日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開!

© 押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会


※2018年7月記事掲載時の情報です。

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