1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 黒い十人の女
  4. 『黒い十人の女』オリジナルに垣間見る市川崑テイスト
『黒い十人の女』オリジナルに垣間見る市川崑テイスト

(c)Photofest / Getty Images

『黒い十人の女』オリジナルに垣間見る市川崑テイスト

PAGES


市川崑とクレージーキャッツの奇妙な関係



 狭い部屋に機械とケーブルが密集するテレビ局の副調整室。本番前の騒然とした雰囲気の中で、船越英二がわずかな隙間に陣取って食事しながら番組収録が始まるのを待っている。いざ、本番が始まると、スタジオではクレージーキャッツの面々がシネマスコープの横長の画面いっぱいに横並びに映され、ちょっとしたコントを演じる。ハナ肇をリーダーに、植木等、谷啓、犬塚弘ら7人のミュージシャンによる、コントも行う伝説的なグループである。


 『黒い十人の女』が公開された翌月からは、日本テレビで『シャボン玉ホリデー』の放送が始まり、クレージーの人気を不動のものにした。本作にはわずか1シーンだけの特別出演だが、この場面は市川崑がクレージーキャッツを撮った唯一のものとなった。


 それだけなら一期一会という話にすぎないが、実は市川崑はクレージーを主役にした映画を撮りたいと思い続けていた。私設応援団長を自認するほど、クレージーのスマートな笑いのファンだっただけに、1963年に企画された社会風刺喜劇『現代戦争物語』では、勝新太郎と共にクレージーキャッツの主演を想定していた。ダンプカー、バス、トラック、タクシーなどの運転手たちが主人公で、入れ替わり立ち替わり現れては無謀運転で事故死するという内容で、1970年には少し内容を変えて『ぶっつけろ』というタイトルで、ここでも植木等やハナ肇の主演で製作が予定されていたものの実現することはなかった。


 その後、ハナ肇は『太平洋ひとりぼっち』(63年)に、谷啓は『幸福』(81年)に、それぞれ脇役で出演している。そして植木等は『かあちゃん』(01年)でオファーしたものの、残念ながらこれは諸事情で実現しなかった。結局、市川崑とクレージーキャッツのコラボが実現したのは、『黒い十人の女』のわずか十数秒のみということになるが、だからというわけではないが、本作の出演シーンは、数多いクレージーキャッツの出演映画の中でも、彼らの洗練された笑いのセンスを凝縮して映し出しているように思えてならない。



文: モルモット吉田

1978年生。映画評論家。別名義に吉田伊知郎。『映画秘宝』『キネマ旬報』『映画芸術』『シナリオ』等に執筆。著書に『映画評論・入門!』(洋泉社)、共著に『映画監督、北野武。』(フィルムアート社)ほか



今すぐ観る


作品情報を見る




『黒い十人の女』  価格 ¥1,800+税

 発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

(C) KADOKAWA 1961

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 黒い十人の女
  4. 『黒い十人の女』オリジナルに垣間見る市川崑テイスト