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『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜前編〜

『ゼロ・グラビティ』から探る、映画における多様な無重力表現 〜前編〜

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(6)ワイヤーワーク



 無重力表現の一番オーソドックスな解決策は、俳優をワイヤーで吊るというものだろう。例えば『Rescued From an Eagle's Nest』(鷲の巣から救われて, 監督: ジェイムズ・サール・ドーリー, 1908)という作品では、鷲にさらわれる赤ん坊をワイヤーワークで表現しており、(筆者が知る限り)これが最初に人間を浮かばせた映画である。


 その後、先ほど述べた『宇宙征服』など、様々な映画でワイヤーワークが用いられてきた。だが俳優にハーネスを着せ、背中に1本のワイヤーを取り付けるという基本は変わらなかった。だがプラクティカル・エフェクト技術者のダニー・リー(*4)は、ディズニーの『メリー・ポピンズ』(監督: ロバート・スティーヴンソン, 64)において、腰のハーネスの左右に回転ジョイントを取り付け、2本のワイヤーで吊る方が、俳優の自由度が増すことを発見する。以降多くの作品でこの「腰2点吊り」が採用されるようになり、空中回転などの激しいアクションも行われるようになっていく。(*5)




*4 ダニー・リーは、一時期ディズニーの社員として活動していたが、フリーランスでも多くの作品に参加している。その代表作に、『ボニーとクライド/俺たちに明日はない』(67)の弾着エフェクトがある。

*5 【参考文献】中子真治 編: 「SFX映画の世界」 講談社 (1983)



(7)クレーンを利用



 ワイヤーの他にも、ジブクレーンのアームの先端で俳優を支える方法がある。『アポロ13』では、全身が写らないショットに利用されており、通常のスタジオ内で撮影された。アームのヘッドは多軸で回転し、カウンターウェイト(重り)によって俳優の重量を打ち消してフワフワと浮いているような表現も可能だった。さらにカメラも、回転ヘッド付きリモートクレーンに取り付けることで、無重力訓練機内で撮影された映像とうまくマッチされた。


 このようなテクニックは多くの作品に用いられるが、『エンダーのゲーム』(監督: ギャヴィン・フッド, 13)や『オデッセイ』(監督: リドリー・スコット, 15)など、デジタル画像修正技術が発達するに従い、より大胆になっていく。つまりカメラにクレーンが写ってしまっても、ポスト・プロダクションで簡単に消去できるからだ。


後編に続く



文:大口孝之 (おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHK Eテレ『コングラ CGの教室』(18)の監修。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、日藝映画学科、日本電子専門学校などで非常勤講師。かつてNHKスペシャル『宇宙 未知への大紀行』(01)では、有人火星探査船の想定映像(実写とCGの合成)を担当し、無重力の描写に頭を悩ませた経験を持つ。



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