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永遠の名作となった『ウエスト・サイド物語』時代を先取りする革新性と舞台からの完璧な映画化

(c)Photofest / Getty Images

永遠の名作となった『ウエスト・サイド物語』時代を先取りする革新性と舞台からの完璧な映画化

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ダンスは本物、歌は吹き替えも可能。そして異例のオープニング



舞台版から映画版へーー。


 「徹底して変更しない部分」と「ふさわしき改変」の両方が『ウエスト・サイド物語』では追求された。舞台版と同様に、ジェローム・ロビンスが求めた最高のダンスはキャスティングにおいて当然のごとく重要視され、ベルナルド(プエルトリコ系シャーク団のリーダー)には、ロンドン公演で敵対するジェット団のリフを演じたジョージ・チャキリスを、そのリフ役には主人公のトニー役でオーディションを受けたラス・タンブリンを起用。あくまでもダンスの技量を重視した結果だ。


 舞台とは違って、変えられるのは「歌」である。現在のミュージカル映画では考えられないが、当時のミュージカル映画は歌のシーンの吹き替え、いわゆる口パクも多く行われていた。ダンスシーンが多くない主人公の二人、トニーとマリアには、歌とダンス、どちらの技量も二の次とされ、リチャード・ベイマーとナタリー・ウッドがキャスティングされた。二人の歌の部分は完全に吹き替えである。当時、ベイマーは無名だったが、ウッドはすでに人気スターであり、より興行的成功を見据えた起用であろう。



『ウエスト・サイド物語』(c)Photofest / Getty Images


 しかしナタリー・ウッドは自分の声が使われるものだと思っており、吹き替えを知ったときに怒ったのは有名な話。彼女の吹き替えで歌ったマーニ・ニクソンは、他にも『王様と私』のデボラ・カー、『マイ・フェア・レディ』のオードリー・ヘップバーンなどの歌を吹き替えていたが、その事実はしばらく伏せられていた。ベルナルドの恋人、アニタ役をダンスの技量で得たリタ・モレノも、歌は吹き替えされており、モレノはこの役でアカデミー賞助演女優賞を受賞するが、「自分で歌っていないのに」と後に批判を受けることにもなる。


 舞台版と映画版では、曲の使われ方や、曲の順番も一部異なっている。舞台版でステージからすべての装置が取り払われ、まっさらな状態で恋人たちの思いを幻想的なバレエで表現する「サムウェア」は、映画版ではトニーとマリアが思いを込めて歌うだけのシーンになった。その結果、リチャード・ベイマーとナタリー・ウッドにプロ並みのダンスを要求されることもなかったのだ。曲順の入れ替えでは、舞台版で前半の「クール」(タイトルどおりシリアスな曲)と、後半の「クラプキ巡査どの」(コミカルな曲)を映画版で入れ替えることで、映画らしいドラマの曲線が生まれる好結果につながった。



 そして「徹底して変更しない部分」として際立っているのが、オープニングである。幕が開く前に、オーケストラが曲のダイジェストを演奏して観客を盛り上げるのが、舞台ミュージカルの常套だが、これをそのまま映画でやってしまったのが『ウエスト・サイド物語』である。スクリーンにはマンハッタン島のイラストが徐々に現れていき、そのカラーが変わるだけ。流れるのは劇中で使われるメロディを編んだオーバーチュア(序曲)。ここだけで約5分が使われる。他に例をみないが、これから始まる物語への期待を高める贅沢なオープニングである。オーバーチュアが終わると一転、マンハッタンの各所を上空からとらえた、まさに「映画的」な第2のオープニングへと移っていく。



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