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『マイノリティ・リポート』SF映画の世界が現実に!?フューチャリストの活躍と現実世界への反映

(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『マイノリティ・リポート』SF映画の世界が現実に!?フューチャリストの活躍と現実世界への反映

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『マイノリティ・リポート』あらすじ

西暦2054年、ワシントンDC。政府は膨大な凶悪犯罪を防ぐ策として、ある画期的な方法を開発し、大きな成果をあげていた。それは、予知能力者を利用して凶悪犯罪が起こる前に犯人を逮捕してしまうというシステムであった。このシステムのお陰でワシントンDCの犯罪件数は激減、将来的にはアメリカ全土で採用されるべく準備が整えられていた。そんなある日、このシステムを管理する犯罪予防局のチーフ、ジョン・アンダートンが“36時間後に見ず知らずの他人を殺害する”と予知され、告発されてしまう。追う立場が一転して追われる立場になったジョンは、自らの容疑を晴らそうと奔走するのだが、彼は既に大きな陰謀に巻き込まれていたのだった……。


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現実世界に、なおも大きな影響を与え続けている作品



 スティーブン・スピルバーグが『A.I.』(01)に続いて取り組んだ、未来世界を舞台としたSF作品である『マイノリティ・リポート』。本作では、16人のフューチャリストから構成されるシンクタンクのアドバイスを受け、詳細にデザインされた社会環境や建築、交通機関、コンピューターなどのディテール描写に、信憑性と深みを与えることに成功した。


 そして、この映画で描かれたガジェットの数々は、テクノロジー関係の企業や大学の研究者に多大なインスピレーションをもたらし、実際の製品に反映されてきた。そして映画公開から16年が経過した今でも、「『マイノリティ・リポート』のような……」という言葉が、会議で度々発せられる。



ジョン・アンダーコフラーの貢献



 このフューチャリストたちの中でも、最も映画に直接的影響をもたらしたのは、MITメディアラボのジョン・アンダーコフラー(*1)だった。彼はこのラボで、石井裕副所長が率いる「情報に直接触れられる研究」を行う、タンジブルメディアグループの最初の博士号取得者である。


 スピルバーグはコンピューターの描写に関して、キーボード、マウス、音声入力装置の使用を嫌い、これに代わる物を求めた。アンダーコフラーは、メディアラボで研究中の技術を基本とした、(「サイバースペースの太極拳」と呼ばれる)ジェスチャー入力(*2)によるユーザーインターフェースを提案する。そして具体的に、早送り、巻き戻し、停止、ジョグダイヤル、消去、移動、拡大、縮小、トリミング、フォーカスインなどのジェスチャーコマンドを構築した。


 この描写は、犯罪予防局のジョン・アンダートン(トム・クルーズ)が、“プリコグ”と呼ばれる3人の予知能力者が見た“プリビジョン”(予知映像)を解析するシーンに用いられており、湾曲した透明ガラス状のスクリーンに表示される映像を、人指し指と親指に付けたセンサーで操作する形で具体化されている。この時、アンダートンが指や手を使ってディスプレイを操る仕草は、映画公開後に実用化された、g-speakと名付けられたシステムとまったく同じだ。



『マイノリティ・リポート』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 


 プリビジョンの映像は、アンダーコフラーとイマジナリー・フォーシズ社や、ブラック・ボックス・デジタル社が協力して作っている。当初は、実際の透明スクリーンに映像をプロジェクションしながらトムが演ずる予定だったが、どうやってもスクリーンに彼の影が入ってしまうため断念された。そこでトムがパントマイムで演じ、ポストプロダクション段階でILMとアサイラムVFX社によって、透明スクリーンの映像が合成されている。


 映画公開後、ジェスチャー入力は現実世界に普及していく。たとえば、2010年にマイクロソフト社はXbox 360用コントローラーとして、深度センサーを用いたKinect(*3)を発売。ゲーム分野だけでなく、これを改造した産業製品やメディアアートなどの応用例も次々と登場する。またリープモーション社は、チューインガム程度の大きさの箱の中にLEDとビデオカメラを収めた、Leap Motion Control Deviceを2012年に開発した。そして現在も様々な企業から、画像認識やAIを応用することで、シンプルな普通のカメラだけでジェスチャー入力が可能な製品が発表されている。


 また何より、スマートフォンやタブレットの操作において、タッチスクリーンやカメラ入力を用いる技術は日常生活に不可欠な存在といえよう。実際、これらのテクノロジーの開発者の頭に、『マイノリティ・リポート』の存在があったのは紛れもない事実だ。



*1 その後アンダーコフラーは、g-speak技術をベースとした企業であるオブロン社を06年に設立。さらに、南カリフォルニア大学(USC)シネマティックアーツ学部非常勤教授も務めている。そして『ハルク』(03)、『イーオン・フラックス』(05)、『主人公は僕だった』(06)、『アイアンマン』(08)などの映画や、テレビシリーズ『TAKEN テイクン』(02)の科学アドバイザーも担当した。そして、彼がデザインしたグラフィックディスプレイやユーザーインターフェースの表現は、SF映画における定番となり、アンダーコフラーが参加していない作品にも影響を与えている。

*2 ジェスチャー入力の概念自体はアンダーコフラーの発明ではなく、メディアラボの前身であるアーキテクチャマシングループにおいて、70年代後半からスタートしていた。その成果は、1979年にクリス・シュマントが発表した「Put That There」のデモで見られる。

*3 プログラマーのジャレット・ウェッブとマイクロソフト社のジェームス・アシュレイは、「Kinectソフトウェア開発講座」という書籍において、「映画『マイノリティ・リポート』は未来社会について観客の想像力をかき立て、Kinectの基になった概念をスクリーン上で実現してみせました。トム・クルーズが手を振り、画面や入力デバイスに手を触れることなくコンピューター画面を操作します。(中略)『マイノリティ・リポート』が想定していたのは50年後のテクノロジーの姿でしたが、Kinectの最初のコンセプトビデオとしてコードネーム「Project Natal」が開始されたのは、映画上映からたった7年後のことでした」と述べている。



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