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トム・ハンクス初のオスカーノミネート作『ビッグ』に集結した笑いの仕掛け人たち

© Photofest / Getty Images

トム・ハンクス初のオスカーノミネート作『ビッグ』に集結した笑いの仕掛け人たち

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ハリウッドでコメディ映画が作られない現在



 『ビッグ』以降の1990年代、ハリウッドコメディはジム・キャリーやアダム・サンドラー等の主演作が次々と市場に放たれ、ボックスオフィスは大いに潤い、劇場は笑いを共有したくて足を運んで来る観客で溢れかえっていた。しかし、2000年代に入って映画の配信サービスが徐々に家庭に浸透するようになると、コメディファンはわざわざ劇場に出かけることに価値を見出さなくなる。大画面と大音響が必須のブロックバスター映画は別としてだ。この状況を受けてハリウッドメジャーによるコメディ映画の製作は激減する。現在作られているコメディ映画はスターのネームバリューやハートウォーミングとは無縁の、より特殊な設定に絞られている。例えば、今年6月に全米公開された『Tag』などは、9歳の頃一緒にやっていた"鬼ごっこ"を30年経った今も延々続けている男たちを描いたもの。時代を跨いでひたすら"鬼ごっこ"が続くのである。


『Tag』予告


 コメディ映画の中でも、特に、あれだけ映画ファンに愛され、一世を風靡したラブコメはほぼ死滅状態にある。ノーラ・エフロンはトム・ハンクス&メグ・ライアン共演の『めぐり逢えたら』(93)でスマッシュヒットを記録した後、同じ顔合わせで『ユー・ガット・メール』(98)を発表。その後、大女優メリル・ストリープに16度目のオスカーノミネーションをもたらした実録ラブロマンス『ジュリー&ジュリア』(09)を放った後、2012年、71歳で他界。


 このジャンルの数少ない後継者といえるナンシー・マイヤーズは、『恋愛適齢期』(03)でコメディエンヌとしてのダイアン・キートンを再発掘し、キートンと相手役のジャック・ニコルソンは抜群のケミストリーを発揮。自他共に認めるニコルソンファンであるマイヤーズは、再び『マイ・インターン』(15)への出演を打診するが実現せず、この役はロバート・デ・ニーロに回ることになる。劇中でデ・ニーロが発散する見た目全然枯れてないオヤジ研修社員のフェロモンは絶妙だった。『ビッグ』から30年弱、デ・ニーロはあの時逃したチャンスを、今度こそモノにしたわけだ。偶然か否か、どちらも主役の第1候補ではなかったが。


『マイ・インターン』予告


コメディ映画の時代は女性の時代だった?



 思えば、トム・ハンクスが画面一杯に躍動し、メグ・ライアンがハリウッド女優トップの興収を弾き出し、キートン&ニコルソンが絶妙の掛け合いで楽しませた愛すべきコメディ映画の時代を支えたのは、ペニー・マーシャル、ノーラ・エフロン、ナンシー・マイヤーズたちだった。つまり、#MeTooムーブメントが起きるずっと前、少なくともコメディ映画のフィールドには、女性監督たちがクリエイティビティを如何なく発揮できる空間があったのだ。『ビッグ』が節目の公開30周年を迎えたこの年、懐かしさと共に危機感を覚えるのは筆者だけだろうか。




文 : 清藤秀人(きよとう ひでと)

アパレル業界から映画ライターに転身。映画com、ぴあ、J.COMマガジン、Tokyo Walker、Yahoo!ニュース個人"清藤秀人のシネマジム"等に定期的にレビューを執筆。著書にファッションの知識を生かした「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社刊)等。現在、BS10 スターチャンネルの映画情報番組「映画をもっと。」で解説を担当。



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