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新鮮さと老練さを併せ持つ『ヘレディタリー/継承』の計算された作品構造とは

© 2018 Hereditary Film Productions, LLC

新鮮さと老練さを併せ持つ『ヘレディタリー/継承』の計算された作品構造とは

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次々に現れる過去のホラー映画の断片



 本作は、父母と兄妹で構成されるグラハム家が、亡くなった祖母の葬儀に向かうところから始まる。それをきっかけに、不気味で奇妙な出来事が次々に家族に起こり始め、彼らは徐々に険悪な関係となり、物語はついに取り返しのつかない、おそろしい惨劇へと導かれていく。


 冒頭、精巧に作られた邸宅のミニチュアにカメラが寄っていき、その中に小さな人間が生活しているように見せるという錯視的な描写がある。ストーリーが進むと、そのミニチュアはアーティストとして活動する母親(トニ・コレット)が作ったものであり、さらにそれはミニチュアが置かれている、まさにその家を模していたことが分かってくる。このシーンによって、本作の家族模様は俯瞰された冷徹な視線によって描写されているということを、観客に印象付けている。



『ヘレディタリー/継承』© 2018 Hereditary Film Productions, LLC


 新鮮な演出だと感じるが、じつはこれときわめて似た描写が、スタンリー・キューブリック監督のホラー映画『シャイニング』(1980)にも存在する。本作はこのように、新しいと感じるシーンが、実際には過去の作品の断片をとり入れていると思われる場合が多いのだ。さらにそれらはホラー映画のなかに存在する様々なジャンルを横断し、統一感を持っていない。


 例えば、暗い部屋で母親が死んだはずの祖母の姿を見るという場面がある。霊が襲ってこず、何のために現れるのかも判然としないが、その不可解さこそが怖ろしい。これはアメリカでも一世を風靡し、「ホラーマスター」と呼ばれたジェームズ・ワン監督の作品に部分的に継承された、「ジャパニーズホラー」の恐怖演出に近い。そしてそのつつましさというのは、幽霊というものが人間の心が生み出したものだと感じさせる余地を与え、一種の文学性を発生させている。それは恐怖と狂気を連結させるサイコホラーの領域とも手を結んでいる。



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