1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ビフォア・サンライズ 恋人までの距離
  4. 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』リチャード・リンクレイターが紡ぐ、時間と空間の哲学とは
『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』リチャード・リンクレイターが紡ぐ、時間と空間の哲学とは

(c)2017 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』リチャード・リンクレイターが紡ぐ、時間と空間の哲学とは

PAGES


※本記事は『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』の物語の核心やラストに触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』あらすじ

アメリカ人青年ジェシー(イーサン・ホーク)と、ソルボンヌ大学に通うセリーヌ(ジュリー・デルピー)は、ユーロートレインの車内で出会った瞬間から心が通い合うのを感じる。ウィーンで途中下車した2人は、それから14時間、街を歩きながら語り合い…そんな自然な会話の中から、彼らの人生観、価値観、そして心の奥の微妙な揺れ動きが見え隠れする。でも別れのときはもう迫ってきていた…セリーヌはソルボンヌ大学で文学を専攻するパリジェンヌ。


祖母の見舞いの帰り、ブダペストからパリに向かうユーロトレインの中で若いアメリカ人の新聞記者ジェシーに出会う。ドイツ人夫婦の喧嘩を逃れて列車のレストランに逃げ込んだ2人の間で、自分のこと、仕事のこと、幼い日の思い出のことなど果てしない会話が続いた。ジェシーの降りるウィーンの駅に着いても、2人の会話はまだ終わらなかった。別れたくない。もっと話していたい。そんな気持ちをジェシーは素直に言う。「明日の朝まで14時間。一緒にウィーンの街を歩かないか?」同じ気持ちだったセリーヌは荷物を持ってジェシーと一緒に列車を降りた。石畳の街路、教会、レコード店、公園の大観覧車、水上レストラン、古いバー、不思議な占い師、川辺の詩人・・・。


街で出会う小さな出来事は、セリーヌとジェシーの心にある感情を芽生えさせていた。2人はなお歩きながら、終わったばかりの互いの恋愛について語り、カフェに入って、今どんなに素敵な出会いをしているか、お互いに告白しあった。だが、14時間の終わりはもうすぐそこに来ている。ホテルに泊まる金のない2人は公園で抱き合って夜明けを迎えた。朝、別れの時間がやってきた。だが、2人は「さよなら」が言えない。「半年後にここで会おう」2人はついに本心を明かした。14時間を経て恋人たちの距離はようやく重なった。


Index


R.リンクレイター監督、初期の傑作



 クエンティン・タランティーノ監督やケヴィン・スミス監督、ハーモニー・コリン監督などが出現した、90年代アメリカのインディペンデント映画。少しだけさかのぼれば、ガス・ヴァン・サント監督やジム・ジャームッシュ監督らもいるが、このような監督たちが時代の寵児として脚光を浴びたのは、80年代の大手映画会社による大衆娯楽映画が、商業的に先鋭化したことの反動でもあったように感じる。そしてインディーズから名を馳せた彼らとともに、この現象の象徴的存在となっていたのが、リチャード・リンクレイター監督だ。


 すでに、90年代若者の気分をとらえたカルト的名作『バッド・チューニング("Dazed and Confused") 』(93)を撮りあげていたリンクレイター監督が次に手がけたのが、旅先で偶然出会った若い男女が、異国の街に降り立って短い時間をともに過ごすという映画、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(95)だった。ジャンルに分けてしまえば「恋愛映画」になるだろうが、本作はその魅力だけにとどまらず、意欲的な試みがいくつも見られる、知的で実験的な映画だ。そして、この作品を考えることで、リチャード・リンクレイターが、現代を代表する重要な映像作家であることが明らかになっていくはずだ。



『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(c)2017 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 私は、本作でリンクレイター監督の作品に出会い、映画というものがただの時間つぶしや一時の清涼剤としてだけではなく、真に複雑なものを表現できる奥深さと、一生を費やして考えるほどの価値のある重要なものになり得るという思いを持った。そして後に映画について書くことを始めるきっかけになった作品でもある。このテキストを読んでいるあなたにも、リチャード・リンクレイターを新たに“発見”してもらいたい。そして、映画というものの可能性を知ってほしい。その一心でこれを書いている。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ビフォア・サンライズ 恋人までの距離
  4. 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』リチャード・リンクレイターが紡ぐ、時間と空間の哲学とは