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岩井俊二の初期代表作『スワロウテイル』をいま観るべき理由とは

(C)1996 SWALLOWTAIL PRODUCTION COMMITTEE

岩井俊二の初期代表作『スワロウテイル』をいま観るべき理由とは

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文芸映画と音楽映画の二重奏



 岩井監督は小説『 スワロウテイル』を映画の3年前、1993年に書いた(発売は1996年)。原作には、まず「自分とは何者か」「人間はどこから来て、どこへ行くのか」という文学の普遍的なテーマがあり、そこに日本の社会に対する監督なりの見方が加わっている。つまり、私たち日本人の内に潜む「均質化幻想」のようなものを、外国人労働者たちと日本社会を対比させることであぶり出したのだ。映像作家になる前は小説家を志していた岩井監督ならではの、文芸映画という側面も本作には認められよう。


 その一方で、個性的なヴォーカルスタイルと独特の存在感を持つアーティストのCHARAを主演の一人に迎え、音楽には当時すでに売れっ子だったプロデューサー/ソングライターの小林武史を起用し、歌姫とバンドの盛衰を描いた音楽映画としての魅力も忘れてはならない。80年代後半にミュージックビデオのディレクターとして頭角を現した岩井監督らしく、詩的な映像と音楽を融合させるスタイルを本作で早くも確立している。



『スワロウテイル』(C)1996 SWALLOWTAIL PRODUCTION COMMITTEE


 異なるジャンル、異なるカルチャーを組み合わせて素晴らしい結果を生み出せることを、岩井監督が自ら実践して証明してみせた『スワロウテイル』。男女格差やLGBTの受容をめぐる課題も含め、多様性を尊重する世界の潮流に乗り遅れっぱなしな日本で、まさに今観るべき映画であり、本作の問題提起に応えてこなかった私たちの社会を真摯に反省する必要があると思い知らせてくれるはずだ。



【参考文献】

『スワロウテイル』岩井俊二著、角川書店刊

『NOW and THEN 岩井俊二 -岩井俊二自身による全作品解説+50の質問-』岩井俊二著、角川書店刊



文: 高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。


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『スワロウテイル』

ブルーレイ・DVD発売&レンタル中

発売・販売元:ポニーキャニオン

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